A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (122)
第122話 スタンピード
俺は今全速力で走っている。
第2陣?そんなもの相手にできるわけがない。もうこれしかない。
俺は即座にシルとルシェをカードに送還して、全速力で逃げた。ステータスに物を言わせて全速力だ。
魔核は惜しいがそんな事を言っている場合ではないのでとにかく逃げる。
絶え間なく後方から集団で移動する音とプレッシャーを感じる。止まったら死ぬ。こんなに命がけで走ったのは生まれて初めてだろう。
この気持ちで体育祭を走っていれば、クラスのヒーローになれていたかもしれない。
息が上がる。肺が苦しい。身体中に乳酸が溜まってくる。口の中に鉄分のような味が充満してくる。苦しい。
ただ、スピードは負けていないようで、音が遠ざかりはしないが近づいてくる気配もない。なんとか距離を保てている。永遠にも思える時間を死ぬ気で走ってようやく8階層への階段が見えた。
ほっとしながらもスピードを緩めずに一気に登りきった。
助かった。その場に座り込んで、呼吸を整えるべく大きく呼吸を繰り返す。
やばかった、あと少しで体力が尽きてやられるところだった。安堵と恐怖を感じながら力を抜いた瞬間、音が聞こえてきた。階段を上る音が。
まさか。モンスターは階層を越えては来れないんじゃないのか?階層間に見えない障壁かなにかがあるんじゃないのか?
防がれて通れないのか?希望的観測を込めて階段を見ていたが、現れてしまった。リザードマンの頭が見えてしまった。 衝撃の光景に直ぐには反応できない。
「ウォーターボール」
なんとか魔法を発動させるが、時間稼ぎにもならない。
急いでシルとルシェを再召喚する。
「シル『鉄壁の乙女』ルシェ『破滅の獄炎』」
最低限の指示を与えて階段からの敵に備える。
幸いしたのは、階段からしか敵が上がってこないので攻撃の場所を限定できているのと、階段という狭いスペースにルシェの『破滅の獄炎』を発動する事で効果が最大限に引き出されている。
俺に今できる事はほとんど無いので、焦りながら空になったマガジンにバレットを再装填するが、指がうまく動いてくれない。
通常、階層を超えてはモンスターは現れない。それが常識だった。しかし、実際に目の前に大挙して押し寄せている。おそらく、以前の恐竜もどうにかして8階層まで階層を越えてきたに違いない。
やはりなにかが起きているんじゃないか?
このモンスター達も何かから逃げている?もしくは何かの前触れなのか?
とにかくやばい。俺一人なら確実にやられていた。
順調に敵を殲滅しているルシェの火力に安心しきっていたのだが
「お、おい。ちょっとやばいぞ。MPが無くなる。」
「え!?」
たしかにルシェのMPは100を超えているがこれだけ連発すればMPが枯渇してもおかしくはない。ただ、そんな事が実際に起こるとは夢にも思っていなかったので完全に失念していた。
「わ、わかった。ルシェ戻れ、俺とスイッチだ。」
マガジンはまだ2個しか装填を終えていなかったがこの際そんな事を言っている場合ではない。
「プシュ」 「プシュ」
とにかく全弾撃ち尽くす。
1個目のマガジンをすぐに撃ち尽くしたので2個目のマガジンを装填する。あと10発しかないが、敵はまだ残存している。撃ちながら頭をフル回転させる。どうすればいい。どうすれば助かる。どうすれば敵を退かせる事が出来る?
「カチッ」
遂に全弾尽きた。
覚悟を決める時が来た。エリアボスや天敵ゴブリンを退けた時と同じかそれ以上のプレッシャーを感じながらも、絶対に生き残る。まだ見ぬ春香とのキャンパスライフの為には絶対に死ねない。
「ウォーターボール」
バルザードに氷の刃を纏わせてから
「ウォオーオオー!」
腹の底から雄叫びを上げて恐怖を振り払いモンスターに向けて突っ込んでいった。