A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (28)
第28話 魔法使い
昨日、大魔法使いへの道が開けたかもと思ったが、そんな甘くはなかった。
今日もダンジョンの片隅で魔法の特訓をしている。
特訓といっても1日三発限定なので、よく考えて訓練する必要がある。
昨日の続きで 今日はスピードをできる限りアップさせることにした。
『ウォーターボール』
昨日より少しスピードアップしたようだ。
『ウォーターボール』
先ほどとほぼ同じだ。
『ウォーターボール』
変わらない。
これで今日の特訓は終了してしまった。
しかも歩くのもやっとの状態である。
それから、連日ダンジョンの片隅で特訓した。
まずスピードだが、これはすぐに限界を感じた。
飛んでいくスピードは結構早くなったが、おそらくプロ野球選手の投げる球ぐらいだろう。
早いか遅いかで言うと早いのだが、100kmオーバーで水玉が飛んだところで所詮は水玉。
大した効果が得られることはなかった。
もしかしたら、音速を超えれば威力が増したかもしれないが、無理だった。
スピードを諦めた俺は、今度は大きさを変えられないか、試行錯誤した。
結論から言うと 質量は変えられなかったが、血の滲むような1日3回の特訓で、形を変えて表面積を変化させることはできた。
簡単に言うとボール状だったものを、 お皿状に変えたり、丸いものを四角に変えたりといったことだ。
水玉に変化を与えることには成功したが、残念ながら俺には変化はなかった。
よくあるアニメの主人公のように、MPが枯渇するまで毎日使用するとMPが増えたり、威力が上がったりといった、お決まり、成長パターンは訪れなかった。
一つあるとすれば、倒れそうな倦怠感に毎日晒されたことで、倦怠感に対する、耐性ができてきたことだ。
倒れそうでも、無視して動けるようになってきた。
まず間違い無く体には悪いだろうが。
自分のできるようになったことを整理して、なんとか実戦で使用できないか試行錯誤を繰りかえした。
そしてついに今日実戦に臨む。
前回と同じように2階層の単体ゴブリンと対峙した。
「シル、ルシェリア 前回と同じで頼む。」
「はい。」 「ああ」
前回と同じように『鉄壁の乙女』に阻まれたゴブリンに向かって
『ウォーターボール』
ゴブリンに水玉がぶつかった瞬間に、ゴブリンの鼻と口を追い隠すように水玉を広げ、貼り付け固定させた。
『ゴボボボッ ゴバッ』
息ができなくなって、息絶えたゴブリンが消失した。
「ふー。やった。」
「ご主人様さすがです。」
「やるじゃねーか」
「まあな。ありがとう。」
俺がとった作戦。それは溺れさせて窒息させることだった。
威力もスピードもない。
水で出来ること。
これしかなかった。
少ない量でも、口と鼻だけ覆い隠せば、息ができなくなる。
作戦はうまくいき、ついに魔法でモンスターを倒すことが出来た。
これで俺も魔法使いの仲間入りだ。
「ご主人様あっちにもう一体モンスターがいます。」
余韻に浸っていたが、シルの声で現実に引き戻された。
言われた方に向かうと今度はスケルトンがいた。
「シル、ルシェリア さっきと同じで行くぞ!」
俺はさっきと同じ要領で、『鉄壁の乙女』に阻まれたスケルトンに
『ウォーターボール』
ぶつかった瞬間 水玉の形を変化させて窒息させる。
「え???」
「あ・・・」
スケルトンは止まらなかった。
ルシェリアが『破滅の獄炎』をつかい危なげなく勝ちはした。
だが、俺の『ウォーターボール』は効かなかった。
完全に失念していた。
スケルトンは骨だけなので呼吸していなかったのだ。
窒息攻撃は全くの無効だったのだ。
初めて魔法でモンスターを狩り、うかれていたが、アンデッド系のモンスターには全く効果がないことが判明してしまった。
大魔法使いへの道は遠い・・・
いやちょっと待てよ。俺がなりたいのは大魔法使いじゃなくて、英雄だった。
ちょっと舞い上がって変なテンションになっていた。
俺は、これからは気をつけようと心に誓った。