A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (287)
お正月SS ねずみ年の落とし物
俺は今12階層に潜っている。
既に13階層迄達する事が出来たので、この階層は通過するだけの場所と化しているが、行手をモンスターが遮っていれば、当たり前だが交戦してモンスターを消滅させる。
「ご主人様、前方にモンスターの群れです。一斉にこちらに迫っています」
「群れ!?この階層で群れなんか出た事ないぞ!みんな臨戦態勢を整えてくれ。シルは『鉄壁の乙女』を頼む」
シルがこの階層で群れと言う表現を使った事は一度もないので、数は間違いなく10を超えるだろう。
今までこんな事はなかったので何かが起こっているのか?それともたまたま俺の運が悪いのか?
シルが『鉄壁の乙女』を唱えてから程なくして光のサークルに鋭利な石のようなものが一斉に襲いかかって来た。
これは、何度もこの階層で味わった俺の苦手としているネズミの攻撃だが、数が多い。10どころではない。
「みんな、ネズミの群れだ。ミク、スナッチを頼んだぞ。数が多いから一体ずつ確実に行こう。サークルの中から魔法で仕留めよう」
正確な数はわからないが20ぐらいは、いそうな気がする。
「小さい事言ってるんじゃないぞ、数が多いならまとめて倒した方が良いに決まってるだろ『破滅の獄炎』」
ルシェが速攻で敵がいるであろう場所に獄炎をお見舞いした。
まあ俺の指示とは違うが、ルシェはこのまま好きにやらせておけば問題ない。
俺は、前方の床をナイトスコープ越しに見つめるが7〜8m程前方を小さなねずみがチョロチョロしているので、バルザードの斬撃を飛ばす。
命中したかどうかは、残念ながら確認出来ないのでとにかく、攻撃を繰り返す。
ベルリアは2刀の活躍の場を求めて敵に向かって駆け出した。
遠距離魔法の使えないベルリアには接近する他術は無いのだが、流石にこの数の中に突っ込んでいくのは危ない気がする。
「ベルリア無茶するな。俺達に任せれば良い!」
「マイロード、心配は無用です。この程度の数、マイロードに頂いたこの2刀の前には物の数に入りません」
見る限り、ねずみの集中砲火を浴びながらも器用に避けながら前に進んでいるので、こちらもそれほど心配無いのかもしれない。
前方に向かってヒカリンの『ファイアボルト』の炎雷弾とあいりさんの『アイアンボール』の鉄球が次々に打ち込まれていく。
ベルリアの更に前方でスナッチが『ヘッジホッグ』を連発しているのが見える。
そこに極め付けにルシェの『破滅の獄炎』の業火が追い討ちをかける。
我がK-12の誇る魔法攻撃のオンパレードでさながら打ち上げ花火のようだ。
ねずみに当たっているのかどうか俺の目では識別できないが、徐々に石による魔法攻撃が弱まっているところを見ると、確実に敵の数が減っているようだ。
「そろそろ私も攻撃してもよろしいでしょうか?」
「あ〜『鉄壁の乙女』の効果が切れたらいってみようか。ベルリアが攻撃を引きつけてるから大丈夫だろう」
「ありがとうございます。それじゃあ行ってみますね『神の雷撃〜』」
「ズガガガガ〜ン」
みんなが派手に攻撃しているのを見てシルも攻撃を掛けたくなったのだろう。
ねずみの群れが出現した時は、かなり緊張が走ったが、この調子であれば敵を殲滅するのは時間の問題だろう。
俺も少しは役に立たないといけないと思い斬撃を繰り返すが、しばらくすると敵からの攻撃が止まった。
「シル、敵の反応は?」
「ご主人様、すべての敵を倒したようです。もう、モンスターの反応は見られません」
「それじゃあ、みんなで魔核を回収しようか」
全員で手分けをして床の上の魔核を回収したが全部で21個もあった。そして最後の魔核を回収しようと進んだ先に
「こ、これは!」
何とウーパールーパー以来のモンスターミートがドロップしていた。
ねずみのモンスターミートだ!相変わらず理屈は分からないが、質量の法則は完全に無視されており結構な大きさがある。
「ミク、これ今日食べるよな。前と同じ所で料理してくれるかな。前よりも多いから真司と隼人も呼んでいい?滅多にないから一回食べさせてやりたいんだけど」
「私はもちろん良いけど、他の2人はどう?」
「もちろん良いですよ」
「いっぱいあっても食べ切れないからな」
俺達は久々のモンスターミートを食べるべく、早速ダンジョンを引き上げて地上で真司と隼人に電話をしてみたが、残念ながら圏外だった。まだ時間が早いのでダンジョンに潜っているのかもしれない。
残念だが次の機会に誘うしかなさそうだ。
2人がいつ帰って来るか分からないので、4人でこの前のフレンチレストランに向かう事にした。
前回同様、ドレスコードを無視したカジュアルな出で立ちで食事を迎えたが、何と言っても今回のメインは『ねずみのローストペリグーソースがけ新春の風仕立て』だ。
見る限り高級フレンチにしか見えない。ねずみの影形も無い。
ナイフで切って口に放り込む。
「うまい!うますぎる。今まで食べた肉の中で1番うまい」
溶ける様に柔らかいが、それでいて噛む毎に肉汁と濃厚な旨味が口の中に広がる。これが幸せの味なのだろう。そして濃厚な味わいの中にも爽やかな後味、これが新春の風と言うやつだろうか。
「みんな美味しいね」
「はい、幸せです」
「私もねずみのモンスターミートは初めてだが、美味しいな。ビーフよりも一段上だな」
みんなも満足しているようでよかった。美味しい物を食べるとみんな幸せで笑顔になれるので、今回はねずみのミートがドロップして本当にラッキーだった。
これからも、美味しい肉を食べれる様に充実したダンジョンライフを送っていきたいと思う。
真司と隼人はこんなに美味しい物が食べられなくて残念だが次回こそ一緒に食べれると良いな。