A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (290)
第290話 鳥のさえずり
俺は今見えない敵と対峙している。
蜂の羽音に似た、微かな音が複数聞こえてきているので、敵がいるのは間違い無いが、残念ながら敵影を捉えることが出来ていない。
誰からも声が上がらないので俺以外のメンバーも見つける事が出来ていないのだろう。
「海斗、居たぞ!」
「えっ?どこにいるんだよ」
「そこだって、そこ」
「どこ?」
ルシェは敵を発見したと言うが俺には見えない。やはりサーバントとの視力差だろうか。
「敵はどんな奴だ?」
「多分虫だ。蜂かハエじゃ無いか」
「大きさは?」
「大きめの蜂ぐらいだぞ」
「ご主人様、私も敵1体を捕捉しました。ルシェの言う通り蜂だと思います」
「姫、多分あれは鳥です。小さなハチドリですよ。動きが虫にしてはおかしいです」
ベルリアも敵を捕捉したらしい。ハチドリ……テレビか何かで見た記憶がある。確かハミングバードとも呼ばれているんだっけ。花の蜜を吸う蜂を少し大きくしたような高速移動とホバリングが可能な鳥。俺は見た事ないが日本にもいるんだったかな。
やはりサーバントだけが捕捉出来ているようだ。
「ベルリア倒せそうか?」
「お任せ下さい。あんな羽虫のような鳥など私の敵ではありません」
そう言うとベルリアが前方に向かってダッシュして行き、双剣を数度振るった。
「マイロード、仕留めました。見ていただけましたか?」
「いや、すまないが見てないと言うか見えない」
ベルリアが仕留めたと言うのだからおそらく仕留めたのだろう。
しかし、俺から振ったとは言え剣でハチドリを斬って落とすとはベルリア流石だな。昔の剣豪も真っ青の腕前だな。
「ベルリア、まだ羽音が聞こえてるから、他にもいるぞ。注意してくれ」
未だに複数の羽音が微かに聞こえてくるので、注意を解く事はできないがそろそろ『鉄壁の乙女』の効果が消えてしまう頃だ。
「シル『鉄壁の乙女』を再度使ってくれ。俺にはまだ敵が見えてないんだ」
「かしこまりました。距離にして大体20m程先の位置に敵がいるようです」
暗視スコープを使用して20m先の虫サイズの敵を認識するのは、サバンナかどこかで生まれながらに鍛えられて無いと普通の日本人には無理な気がする。
もしサーバントがいない場合は、もっと前方まで踏み込んで敵と交戦する必要がある。近づいて面の大きい武器で叩き落とすか、虫取り網を使うか、もしかしたら殺虫剤も効果があるかも知れない。
「俺にはその距離の敵は見えないからシル移動するぞ!みんなも一緒について来て」
そう言ってシルを抱っこしたまま前方へと歩を進める。
ベルリアは2体目を仕留める為に既に前方へ移動しているが徐々に羽音が大きくなってくる。
推定距離が5mを切った辺りから徐々に敵影がナイトスコープ越しに確認できるようになってきたが、すぐに移動を繰り返しているので捉えたと思ったらあっという間に画面から外れてしまう。
確かに小さい。本当に注意深く見ないと気づかないレベルだ。
「みんな見えてる?」
「うん、見えてる」
「はい」
「ああ、小さいな、今までで1番小さいんじゃ無いか」
やはりこの距離まで進むと俺と同じようにみんなにも見えているらしい。
「あれ、いける?」
「私は無理ね。さすがにあのサイズを銃で落とせたら神業よ」
「私は『アイスサークル』で閉じ込めてしまえばいけそうな気もします」
「私もなぎなたでは無理だな。もっと近づいてから『アイアンボール』ならいけるかもしれない」
「それじゃあ、ミクには後ろで控えてもらって3人とベルリアでやってみようか」
「ちょっと待て、わたしは?」
「ルシェはいざと言う時のために待機な」
「わかった。いざと言う時だな」
『破滅の獄炎』なら1発かもしれないが、ルシェは燃費も悪いし出来る事なら俺達だけで倒しておきたい。