A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (3)
第3話 シルフィー
翌日学校から帰って来た俺は、いつものようにダンジョンには潜らず、国営ダンジョン探索調査員センター 通称ダンジョンギルドへ向かった。
特別親しいギルドスタッフがいるわけではないが、いつも魔核を買い取りしてもらっている受付のお姉さん
には、普段一言二言会話を交わす程度には顔見知りになっていた。
なので彼女 日番谷さんに昨日の魔核を売却するついでを装って『サーバントカード』について聞いてみた。
「すいません。ちょっと聞いてもいいですか?いつかサーバントカードを手に入れたらいくらぐらいで売れるんですか?天使や神様みたいなカードもありますか?」
ちょっと挙動不審だったかも知れないが、平静を装って矢継ぎ早に聞いてみた。
「そうですね。レアカードは探索者の方が秘匿される事も多いので一般にはあまり知られていませんが、天使等のゴッズ系カードというのが存在しています。世界中で100枚程度しか見つかっていない超レアカードです。」
「おそらくオークションに出回れば10億円以上すると思われますが、まず出てくる事はないでしょう」
「じゅ、じゅ、 じゅうおくですか!!!」
心臓が飛び出るかと思った。ドッ、ドッ、ドッ、ドッ 動悸が止まらない。
全身からわけのわからない汗が噴き出してくる。
真摯に答えてくれた日番谷さんにお礼を言って足早に逃げるようにダンジョンに潜った。
潜ったもののダンジョンの片隅で座り込んだ俺は動けなかった。
「10億か〜」「10億な〜」「10億円」「1000000000円」 「じゅうおくー!!!」
10億あれば今後働かなくても生きていける。いやむしろ贅沢に暮らしていける。
家や車を買ってもまだまだ余る。
大学も行かなくても全然大丈夫。
むしろこれからリッチでモテモテ人生かも知れない。
そんな不健全な考えがぐるぐる頭を回っている。
俺はもう一度ヴァルキリーのカードを取り出して穴が開く程見つめる。
これが10億か・・・
一度でも召喚するともう売り物にはならない。
普通に考えて100パーセント売却以外にあり得ない。
まさにドリームジャンボカード。
夢の10億円カード。
そして夢の10億円生活。
いやオークションだからもっと行くかもしれない。
天使で10億円だとすると、半神だと20億???
だが、しかし・・・
俺が探索者になったのはお金儲けと、もう一つ 夢とロマンを求めていたからだ。
このカードがあれば深層階までいけるかも知れない。
夢に何度も見た魔王を倒すような英雄になれるかも知れない。
何よりこの絶世の美女を召喚してみたい。
サーバントの意味は召し使いである。
絶世の美女を召し使いにする。男なら一度は夢見るロマンではないだろうか。
ゲスい。我ながらあまりにゲスい。
しかしこの2年間スライムのみを狩ってきたスライムスレイヤーとしては、どうしても召喚してみたい。
探索者ライフが劇的に変わるかもしれない。
このマンネリ化した日々に 探索者になったばかりの頃のようなドキドキが戻ってくるかもしれない。
そう思い始めるともう我慢できなかった。
[俺の厨二夢は10億にも勝る。]俺は決断した。
サーバントカードを使用する事を。
使い方は簡単だ。
カードを額に当て サーバントの名前を念じればいいだけだ。
俺はカードを額に当て ヴァルキリーの名前 シルフィーを念じた。
カードが閃光につつまれ、目の前には俺のシルフィーが・・・・
「え? 」
「は? 」
「なに?」
「誰だおまえ・・」
そこにいたのは絶世の美女 ではなく 10歳ぐらいだろうか?
水色の髪に碧眼のミニチュア鎧姿の幼女が佇んでいた。
「ご主人様・・・」
「わたしはシルフィー 召喚に応じ顕現しました」
確かに面影はある。 装備も似ている。
だがどう考えてもおかしい。絶世の美女 いや 絶世の美半神がなぜ幼女 いや幼半神に??
ここで俺のストライクゾーンにロリ属性があれば泣いて喜んだだろう。
確かによく見ると可愛い。
カードの美女を10歳若くした感じだ。
しかも背中から小さな羽が生えている。
どう見ても普通の人間ではないのでおそらくヴァルキリー 半神なのだろう。
確かに夢にまで見たサーバントだ。
俺のサーバントカードは間違いなく本物だったようだ。
しかし・・・・
違う。
俺が10億円と引き換えにしてまで召喚した夢とロマンの美女 シルフィーがどこにもいない。
確かにシルフィーという可愛い幼女の半神は顕現した。
だが違うんだ。俺が夢見たサーバントはこれじゃないんだー。
その瞬間、俺には絶望と幼女のサーバントが残されたのだった。