A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (302)
第302話 紙一重
俺は今13階層を進んでいる。
ペースを緩めておやつタイムを取りながら進んでいる。
「ミクさん、ちょっと良いですか?」
「ヒカリンどうしたの?」
「それが海斗さんがおかしいんです」
「海斗がどうかしたの?」
「それが急に何か悩み事は無いかとかなんでも俺に相談してくれとか、色々言って来たんです。おかしいと思いませんか?」
「そういえば私にも同じようなこと言って来たわ。確かに変ね。おかしくなったのかしら」
「海斗さんってそう言う感じの人じゃ無いですよね」
「そうね。マイペースだし女心には疎い感じだしね。急にどうしたのかしら。精神的に不安定にでもなってるのかしら」
「私も急に変な事を言い出したので心配になってしまったのです」
「そうね。今度海斗の悩みを聞いてみようか」
「そうですね。思ったよりも疲れてるのかもしれませんね」
後ろで2人がこそこそ話をしているが、やはり2人共悩みがあるのかもしれない。
すぐには言い出しにくいのかもしれないので、また時々声をかけてみようと思う。
「ご主人様、敵モンスター3体です。動きが余り無いのでトレントだと思います」
「それじゃあ、俺とベルリアとあいりさんが前に立って、残りのメンバーは後ろでいってみよう」
ゆっくりと進んでいくと、今度は3体の普通?のトレントがいた。
「それじゃあ行きますよ」
俺とベルリアはトレントに近づく為にいつものように駆け出したが、あいりさんもすぐ横を駆けてくる。
「あいりさん、注意してください!」
俺も自分の敵に集中する必要があるのであいりさん迄フォロー出来ない。
目の前から木の杭が飛んできたので大きく回避するが、避けた側から次々に飛んでくる。
ご丁寧に先が尖っているので、向かって来る杭に対して恐怖を覚えるが、止まる訳にはいかないのでそのまま突っ込む。
トレントの目前に迫ったタイミングでバルザードの斬撃を飛ばしてダメージを与えてから更に踏み込んで、幹の部分を切断のイメージで一気に斬り倒した。
横に目をやると、あいりさんがトレントの至近距離からの『アイアンボール』を放っていた。
至近距離から放たれた鉄球は枝を薙ぎ払い、幹のど真ん中に完全にめり込んでいた。
普通の生物があんな感じになったら完全に絶命していると思うが、あいりさんは更に『斬鉄撃』を使い薙刀を横薙ぎに振るい見事に鉄球が埋まって破損している部分のすぐ下側を一刀両断にしてしまった。
見事としか言いようがない。俺が口頭で伝えただけの戦術をいきなり完璧に遂行してしまった。
当然のようにトレントをあっさり葬り去ってしまった。
一体、さっきの悩みは何だったのかと思うような華麗さだ。
そして最後の一体もベルリアが2刀で『アクセルブースト』を使って難なく倒す事に成功していた。
この階層で初めて炎に頼らずトレントを倒す事が出来たので前衛の3人は満足感が高い。
「あいりさん、さすがですね。凄いじゃないですか」
「いや、これも海斗のアドバイスのおかげだよ。私の中にさっきの様なやり方の引き出しは無かったんだ。海斗に相談してよかったよ」
「あいりさん……」
あいりさんにお礼を言われて照れ臭いと言うよりも単純に嬉しかった。メンバーの助けになれた事が純粋に嬉しくて、感極まってしまった。
「ミクさん、何かあいりさんと海斗さんが話しているのですけど、海斗さんが涙ぐんでる様に見えるのです」
「そうね。確かに目が潤んで泣き出しそうね」
「大丈夫なのでしょうか?」
「やっぱり、精神的に不安定なのかもしれないわね。早いうちに相談に乗ってあげた方がいいかもしれないわね」
「そうですよね。海斗さん絶対おかしいですよね。私達でフォローしてあげましようね」
後方ではミクとヒカリンがまた何やらこそこそ話している様だったが、感極まった俺には全く気にならなかった。