A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (305)
第305話 親心
俺は今父親と一緒に露天風呂に入っている。
「そういえばお前、王華学院受けるんだってな」
「そのつもりだけど」
「受かりそうなのか?」
「今のまま頑張ればなんとかなると思うけど」
「母さんに学費は自分で出すと言ったそうだな」
「だから結構探索者として稼いでるから学費ぐらい大丈夫なんだって」
「そうか。まあ足りなかったら言ってこいよ。俺も普通に稼いでるからな」
「大丈夫だって」
やはり、お金の心配をかけているらしい。
「お前、探索者になってから3年近く経つけど、そんなに上手くいってる感じじゃなかっただろう」
「最初は上手くいかなかったけど、最近調子が出て来たんだ」
「まあ、3年近く辞めずに続けてるだけでも感心はしてたんだが。危なく無いのか?」
「ちょっとは危ない事もあるけど、楽しいし大丈夫だよ」
「将来、探索者で食っていくつもりか?」
「出来たらそのつもりだけど」
「そうか。まあ大学だけはちゃんと卒業しろよ。いざという時役に立つかもしれないからな」
「わかってるよ」
急に真面目な話になったが、どうやら父親は探索者に反対では無いらしいのでちょっとほっとした。これで、大学に行きながら探索者を続けても文句を言われる事は無さそうだ。
「そういえば、お前、彼女とかいるのか?」
「は、はぃっ?」
「母さんがお前に彼女がいるらしいと言っていたから、少し気になってな」
「いや、そんなのいないけど」
「照れなくてもいいんだぞ。俺も高校の頃に初めての彼女が出来てな」
「いや、本当にいないから」
「そうか、母さんの勘違いか。お前が普段しないお洒落な格好をしたり、恋愛映画のパンフレットを持って帰って来たりしてきたから、絶対彼女とデートだって言ってたんだが」
「なっ………」
母さん、何を父さんに教えてるんだ。それに格好や映画のパンフレット、なんでそんな事まで見てるんだよ。
俺も少し春香とお買い物で浮かれていたのかもしれない。まさか母さんがそんなところまで見ているとは思いもしなかった。
最近になって彼女がいるのかと聞かれたが、実はかなり前から疑っていたと言う事か。
だが母さん、残念ながら違うんだ。出来ればそうだと答えたい所だが、彼女じゃないんだ。
春香は俺の思い人には違いないが彼女ではないんだ。
「それは、友達と行ったんだ」
「友達か。女の子か」
「そんなのどっちでもいいだろ」
「そうか。頑張れよ」
なんで冬の露天風呂で父親と恋話をしなくちゃいけないんだ。気まずすぎる。
しかもビールを飲んだせいか普段あまり喋らないのに、急にいっぱい喋りかけて来た。
「それじゃあ、俺は先に出るから」
その場から逃げ出す様に父親を残して、先に部屋に戻る事にしたが、戻ると母親が部屋でテレビを観ていた。
「お父さんは?」
「まだ温泉に入ってるよ」
「そう。そういえば海斗、彼女と上手くいってるの?」
「いや、だから彼女じゃないんだって言ってるだろ」
「春香ちゃんでしょ」
「なっ………なっ、なにを……」
「小学校で一緒だった春香ちゃんでしょ。綺麗になったわね〜」
「………なんで母さんが春香の事を………」
「あら〜海斗、春香って呼んでるのね」
「うっ………なっ、なにを言ってるんだよ。そもそも違うし」
「なにが違うのよ」
「春香は彼女じゃない」
「誤魔化さなくてもいいのよ。だってあんなに仲良くデートしてたじゃない」
「ど、ど、どこで?どこで見たんだよ」
「それはショッピングモールとか、初詣とか」
「母さん、つけてたのか?」
「そんな訳ないでしょ。私だって買い物とかするんだから見かける事もあるわよ。最初見た時はびっくりしたけど、女の子を見たら子供の頃の面影あるじゃない。あ〜春香ちゃんだと思って」
「…………」
「海斗やるじゃない。春香ちゃん射止めるなんて。お母さん見直しちゃった。この前、偶然春香ちゃんのお母さんにも会ったのよ」
「そんな偶然あるのかよ」
「息子がお世話になってますってちゃんと挨拶しといたわよ」
「なっ………」
「春香ちゃんのお母さんも、海斗が春香ちゃんの写真を一杯撮ってくれたんだって喜んでたわよ」
「ま、ま、ま……」
母さん一体どこまで知ってるんだ。俺の行動は全部バレてるのか?しかも春香のお母さんにまで話が通ってるのか?俺の撮った写真は春香が見せたんだろうが、女の子ってそんなものなのか?親に写真とか見せるのか?そもそも俺の事はどう伝わってるんだ?まさか娘を激写する変態だとか思ってないよな。
落ち着け。落ち着け俺。
「母さん、本当に春香とはそんなんじゃないんだ。買い物友達なんだよ」
「買い物友達って、写真も撮ったんでしょ」
「それはそうだけど、買い物友達なんだよ」
「まあ、海斗がそう言うならそう言う事にしとくけど、春香ちゃん可愛いから人気あると思うわよ」
「そ、そ、そんな事は言われなくても知ってるって」
「そう。分かってるならいいけど。頑張ってね」
母親にどこまで見透かされているのかわからないが、応援されると変な感じだ。
結局その日は3人でテレビを観たりしながら、ごろごろして眠りについた。
翌朝も美味しいご飯を食べてから父親の運転で家に帰ったが、支払いは1泊2食付き3名で6万9000円だった。
高校生にとってはかなりの高額出費となってしまったが、両親共に満足顔だったので良かったと思う。久しぶりの家族旅行となったが結構良いものだなと思った。