A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (31)
第31話 蝉の季節
4階層に潜り始めて既に数日が過ぎている。
虫型モンスターが現れると
「キャー ! ! !」 「ウヮー ! ! ! 」
「シル『鉄壁の乙女』を頼む」
未だに、この繰り返しだ。
慣れるということは一切ないらしい。
本人達に聞いても
「無理なものは無理 !!」
としか返ってこない。
出現したゴキブリ型モンスター 名付けて『Gちゃん』 3匹を相手に俺は、殺虫剤ブレスを繰り返す。
3匹が逃げ惑うと、サーバントの2人の悲鳴と共に、 阿鼻叫喚の恐慌状態となっている。
それでも俺が追い回して撃退を繰り返しているが、突然『Gちゃん』の最後の一体が
『ブォーン』
という羽音をさせて、飛びながら俺に向かってきた。
いくら虫が平気でも大型犬ほどもあるゴキブリが向かってきたのだ。
生物としての本能がシグナルを送ってくる。滅茶苦茶びびってしまった。
腰が引けた俺は、避け損ねて『Gちゃん』のギザギザの足が、肩口に引っかかるような形でぶつかってしまった。
「ドン !!」
軽く掠った程度だったとは思うが、強烈な衝撃で1Mほど弾き飛ばされてしまった。
「いってー!!!」
無茶苦茶痛かった。カーボンナノチューブのスーツのおかげで、裂傷はない。だけど強烈な打撲だ。
折れてはいない、ただの打撲だが、滅茶苦茶痛い。
「ご主人様大丈夫ですか?」「おい、しっかりしろ」
背後からサーバント2人からの声は聞こえてくるが、救援の手は伸びて来なかった。
仕方がないので痛みを我慢して最後の1匹を再度追い回して仕留めた。
「ふー。危なかったな。」
痛みを堪えて、2人に話しかけたが、2人とも恐慌状態から脱しておらず、ろくな返事がなかった。
ステータスを確認するとレベルアップを果たしていた。
高木 海斗
LV 12
HP 30
MP 18
BP 34
スキル
スライムスレイヤー
ゴブリンスレイヤー(仮)
神の祝福
ウォーターボール
「おおっ !?」
前回のレベルアップと違い『神の祝福』が十分に作用したのだろう。今までで一番数値がアップしている。
BP6もアップした。
おそらく今回の4階層でシルからの俺への信頼という『愛』がアップしたのだろう。
頑張ってよかった。
少し強くなった俺は、また狩りを続ける。
今度は、カマキリ型と芋虫型そして初のセミ型だった。
カマキリの鎌に切られれば、ひとたまりもないだろう。
『鉄壁の乙女』の効果範囲内から倒したい。
芋虫は問題ないと思うが、問題はセミ型だ。「Gちゃん』とは違い、初めての本格的な飛行タイプだ。
殺虫剤が届かない場合は、ボウガンを使用するしかない。
すぐに戦闘状態に入ったが、まず芋虫型を先に仕留めた。
殺虫剤ブレス大量噴射で問題なかった。
次にカマキリ型だが、鎌の部分を伸ばして威嚇してくるので、ブレス噴射するが仕留めるには、微妙に射程が届かない。
意を決して『鉄壁の乙女』の効果範囲を飛び出し、カマキリ型の側面に回り込み、タングステンロッドで牽制しながら殺虫剤ブレス。
攻撃される前にうまく倒すことが出来た。
残るはセミ型だ。
ブンブン飛び回っている。
降りてくる気配はないのでボウガンを連射する。
「カン」「カン」
「嘘だろ !?」
ボウガンの矢はあっさりセミ型の外殻に弾かれてしまった。
4階層に潜ってからメインの武器が殺虫剤ブレスばかり使用していたので、失念していたが、昆虫の外殻はもともと硬い。
それが大型犬サイズとなると、とんでもない硬さと厚みだろう。
やばい。俺の手持ちの武器では、歯がたたない。
ボウガンの攻撃に刺激されたセミ型が
『ジージージー!!!』
鳴き始めた。
「うわー!!!」
とんでもない音量だ。 サイズ相応の爆音だ。鼓膜が破れそうになる。
「うう・・・」
俺は背後の2人に助けを求めようとして絶望した。
『Gちゃん』以外も虫全般ダメなようで、『鉄壁の乙女』の効果で音の影響は受けていないようだが、音に苦しんでいる俺を見ても、全く助けようとする素振りは見えない。
このままではやばい。
想定外の展開になってしまったが、こうなっては、俺の手札は一つしかない。
『ウォーターボール』
セミの顔に水の塊を貼り付かせた。
本物の昆虫は気門で呼吸しているので水責めは効果が薄い。だがこいつらは昆虫型のモンスターだ。効くかどうかわからないがやるしかない。
しばらくすると、セミ型は蛇行をはじめ、墜落して消失した。
やった。効果があった。
ホッとした俺は、疲れがどっと出てその場にへたり込んでしまった。
俺はサーバント達のサポートの無さを嘆きたくなった。