A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (330)
SSバレンタインデー
今日はバレンタインデーだ。
バレンタインデー、それは俺にとってはクリスマスに次ぐ悪夢のようなイベントだった。
モテる奴にはこれ程楽しいイベントは無いのだろうが、非モテの俺には苦行の様な1日だ。
小学校3年生の時以来、母親以外から1度もチョコレートを貰った事が無い。
毎年バレンタインデーの朝は気が重い。
バレンタインデーが土日だった時は心の底からハッピーだった。
去年までの俺は、朝から重い身体を無理やり立たせてトボトボと学校まで向かっていった。
100%誰からも貰えないのが分かっていても、奇跡が起きないかとあり得ない妄想に頭を支配されて、朝の靴箱を見る。
もちろん何も入っていないが、軽くショックを受けながらも誰にも気づかれないように教室に向かう。
次に机の中とロッカーに何かいつもと違うものが入っていないか、コソッと確認するが、もちろん何も入っていない。
次はお昼休みに誰かが手渡ししてくれるというミラクルに期待するが当然そんな青春イベントは起きず、周りではちらほらイベント発生したモテキャラ達がアオハルオーラを漲らせており、更に俺の心が悲鳴を上げる。
そして最後に放課後イベントを期待しながら何も無くダンジョンに直行して、スライム相手にストレス発散をしてダークサイドの落ちるのを踏み止まる。そして夜家に帰ると母親からオンリーワンのチョコレートをもらう。母親からでも無いよりはマシだと思ってしまう自分が悲しかった。
去年迄の俺はこれの繰り返しだったが今年の俺は違う。
買い物友達になった春香がいる。友達ってチョコレートくれるんじゃ無いだろうか。
仮に義理チョコだとしても同じチョコレートだ。カカオが入っていれば本命と同じチョコレートには違いない。
今俺は学校に向かっているが、去年までの身体の重さが嘘のように感じられない。寒いが清々しい朝だ。
学校についてから真司と隼人に声をかける。
「は〜っ。ふ〜」
「朝からため息がすごいな隼人」
「そりゃそうだろ。俺は今年もチョコレートをもらえる可能性ゼロなんだよ。一体誰がバレンタインデーなんてものを考えついたんだろうな。俺はバレンタインさんなんか見たことも聞いたこともないぞ」
「いつにも増して荒れてるな」
「そりゃあ去年お仲間だった2人が裏切って俺1人になっちゃったからに決まってるだろ」
「俺は別に裏切ってないぞ」
「俺も裏切ってないけど」
「お前ら2人はチョコレート確定だろ。しかも本命チョコだぞ。もしかしたら手作りかもな。食べて糖分取りすぎで病気になるかもな。は〜」
「ちょっと待て。俺のは本命チョコってのとは違うと思うぞ。もしかしたら真司はそうかもしれないけど。そもそもくれるかどうかも分からないだろ」
「は〜っ、どう考えても海斗が1番可能性高いだろ。あ〜俺にもおまけでいいからくれないかな」
隼人の気持ちは痛い程に分かるが、俺も貰えるまではどうなるか分からないので、だんだん緊張して意識し始めてしまった。
授業が始まってしまったのでとりあえず朝にもらえる可能性は無くなってしまった。
残るは昼休みと放課後だ。
注意力散漫になりながら授業を受けているうちにお昼休みを迎えた。
3人で昼ごはんを食べていると、春香と前澤さんが向かって来るのが見えた。
このタイミングで来るって事は遂にか!
近づいて来たのをのを気づかないふりをして一心不乱に弁当を食べる。
「ちょっといいかな?」
きた〜!
遂にこの時が来た。
「はい、何でしょうか春香さん」
「今日バレンタインデーでしょ。だから悠美と一緒にトリュフを作ってみたんだ。よかったら食べてみて」
「あ、ありがとう」
え?なんでトリュフ?チョコレートじゃなくてトリュフ?トリュフってキノコだよな。