A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (379)
第377話 金の豚
俺は今15階層の金の豚と戦っている。
こんな豚は見た事はないので幻獣には違いないのだろうが俺の思っていた幻獣とはかなり違う。
ただ、巨大な貯金箱の様なふざけた見かけとは異なり15階層の敵だけあってかなり強い。
近づいた瞬間横に回り込まれたが、目の前から一瞬消えた様に感じてしまい、俺はすぐには対応する事が出来なかったが、ベルリアがすぐに俺との間に割って入り、金豚の突進を食い止めてくれた。
巨体のくせにスピードで俺を上回っている気がするので、すぐにナイトブリンガーの効果を発動して『アサシン』の効果に期待する。
今の所ナイトブリンガーの発動が『アサシン』の能力を引き出すトリガーの様になっているが、本来は別の能力なのでそのうちMP消費の必要無い『アサシン』を自由自在に使いこなしたい。
「ベルリア、そのまま留めておけ!」
俺はその場から『ドラグナー』を構えて発射しようとしたが、俺が狙っているのを感知したのか、豚のくせに後方に下がった。
猪突猛進と言うぐらいだから改良種の豚も前進しかできないのかと思っていたがどうやらこの金豚は後ろにも下がる事ができる様だ。
俺はそのまま豚を追いかける。今度は豚の動きを広く見ているせいもあるが『アサシン』の効果もあり視界から豚が消える事は無くしっかりと捕捉出来ている。
「ベルリア、挟むぞ!」
「わかりました」
俺とベルリアは左右に分かれて挟みうちにしようと考えたが、これが良く無かった。
先程『ドラグナー』を察知したので俺の事を見えているものだと思い込んでの行動だったが、実際には見えてはいなかったのだろう。
ベルリアが追い立てた右とは逆方向の左側、つまり俺が挟み込もうとしていた方に迷う事なく全速力で向かって来てしまった。
俺を狙っているわけでは無く、何も無い空間に全速力で移動しているだけなのが見て取れるが、スローモーションの様に正面から巨大な金の豚が迫って来る。
あ………
俺ダメかも…………
スローで金豚が迫って来る視覚とは別に高速で脳裏に春香、両親、パーティメンバー、そして真司と隼人の事が浮かんで来てしまった。
これって走馬灯だよなと冷静に考えながら、俺は吹き飛ばされてしまった。
以前にも飛ばされた事があったが、その時を超える衝撃が全身を駆け巡る。
痛みを感じながら、俺の人生は金の豚に跳ね飛ばされて終わるのか………このまま異世界転生しないのかな
などと考えながら宙を舞っている。
金豚も何かにぶつかった感はある様で動きが止まっている。
「ご主人様~!豚の分際でご主人様になんて事を!『神の雷撃』」
俺は随分と長い時間宙を舞っていたのだろう。飛んでいる間にシルの声が聞こえて金豚は跡形なく消えてしまった。
その直後地面に叩きつけられて、再び痛みが襲って来たがどうやら俺は生きている。
理屈は分からないが、今回の事を考えると走馬灯は死ぬ時以外にもみる事がある様だ。ただし死ぬ程全身が痛い。
「ご主人様〜!ご無事ですか〜!」
「おい海斗〜!死ぬな!呪うぞ!死ぬな〜!」
サーバントの2人が非常に騒がしい。
特にルシェ俺は死んで無いぞ。
「あ、ああ、大丈夫だ。いや大丈夫じゃないけど生きてるぞ」
「ああ、よかった」
「しぶといな」
ルシェはいつも通りだがかける言葉を間違ってるぞ!
「ベルリア、悪いけど治療を頼む」
「かしこまりました。すぐに治しますのでお待ち下さい『ダークキュア』」
ベルリアの魔法の発動と共に全身の痛みが引いていく。
かなり激しく飛ばされたが、気を失ってもいないのでナイトブリンガーとレベルアップしたステータスのお陰で自分の耐久力が上がっているのを、今の段階で実感出来たのである意味良かったのか?
それにしてもナイトブリンガーと『アサシン』の効果で気配を消してしまう事にこんな弊害があるとは思いもしなかった。
消えてる事で逆に遠慮無くぶつかられる事があるとは思いもしなかった。
今後は効果発動後の相手の移動経路も予測しながら動く必要があるかもしれない。