A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (42)
第42話 隠し通路
今日も俺は5階層に潜っている。
探索者の目的は大きく分けて2つある。
ダンジョン内でモンスターを倒し、アイテムや魔核を手に入れる。
もう一つはダンジョンを、くまなく探索し、ダンジョンを踏破する。
前者は金儲けの意味合いが強く、後者は名誉や、探求心を満たす意味合いが強い。
プロの探索者にはバランス良く両立している人たちもいる。
俺は、心情的には後者を重視したい。
しかし、現実は甘くなく、先立つ物がなければ、準備もできないし、探索を進めることもままならないので、スライムの魔核狩りは欠かせないライフワークだ。
5階層にも少し慣れてきて、ある程度戦い方が確立されてきた感じもする。
「シル、周辺にモンスターの気配はあるか?」
「いえ、すぐ近くにはいないようですが、ちょっと変です。」
「変って何が?まさか、俺のこと !?」
「い、いえ違います。あの突き当たりの壁から魔力を感じます。」
「あ、ああ。壁ね。 壁から魔力ってどういうことだ?」
「それがよくわからないんです。」
「それじゃ、ちょっと調べてみるか。」
俺は突き当たりの壁を恐る恐る、観察してみた。
モンスターが潜んでいたり、擬態しているとやばいので、タングステンロッドで、小突いたり、落ちている小石を投げたりしてみたが特に変化はない。
思い切って、近づいて触ったり、押したりしてみたが、ただの壁だ。
「シル。特に変わったところは何もないな。ただの壁だぞ。」
「いえ、やっぱり間違いないです。この壁から魔力を感じます。」
「ルシェ、お前はどうだ。何か感じるか?」
「わたしは、なんにも感じないけど。シルが言うなら間違い無いんじゃない」
「う〜ん」
俺は再度、隅から隅まで探ってみたがやっぱりただの壁だ。仕掛けも無ければ、スイッチや隙間もない。
アイテムが埋まっているわけでも、モンスターが潜んでいるわけでもない。
「やっぱり、何もないな。次に行くか。」
「ご主人様。ここ絶対何かあります。できれば私に任せてもらえませんか?」
「それは別にいいけど、何もないぞ。どうするんだ?」
『神の雷撃』
「ズガガガガーン」
「え!? シル?」
なんとシルは壁に向かって『神の雷撃』をぶっ放した。
これ大丈夫か?捕まったりしないよな。
それはそうと、シルは何を考えているのか。
いきなり壁に『神の雷撃』ってやばい人だろ。
まあ人ではないけど・・・
『神の雷撃』をぶっ放した壁の土煙が晴れてきたので、じっと見てみるとそこには通路らしきものが現れていた。
これって・・・
「シル、ダンジョンの壁って穴を開けると、通路が現れるものなのか?」
「いえ、詳しくはわかりませんが、通常は違うのではないでしょうか?」
「そうだよな」
「これ、隠し通路でしょ。それしかないでしょ!?」
ルシェがちょっと興味津々という感じで騒いでいる。
隠し通路か。
そうだよな。これが噂の隠し通路だよな。それしかないよな。
ダンジョンには未踏破エリアがある。まだ見ぬ深層エリアもそうだが、稀に隠し通路や隠し穴といったものがあり、全てが見つかっているわけではなく、偶然に発見される場合が多い。
しかし、今回の隠し通路、壁に魔力が感じられるって、普通の探索者には分かるはずもない。
おまけに普通の壁が立ちはだかっている。調べても普通の壁だった。
シルだから一発で破壊できたが、通常の探索者ではこうはいかない。
電動工具を持ち込んで時間をかければ穴を開けることはできるかもしれないが、確信を持てない状態で、そこまでの労力をかける探索者は稀だろう。
正直、隠し通路とはいえ隠しすぎだろ。
隠し通路というより、もはやただの壁だ。
だから今まで誰にも手をつけられることなく残っていたのだろう。