A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (439)
第437話 天国体験
キャストの人の掛け声と共にヘブンズフォールラッターは動き出したが、動いたと思った次の瞬間強烈なGを伴い加速した。
は、はやい……
今までの人生で経験した事が無いような加速感だ。
ゴッドサンダースプラッシュの落下も激しかったがそれとはまた違う加速感。
「ぐぅううう〜」
強烈な加速で押し出された勢いのまま宙ぶらりんの状態で一気に最上段まで運ばれ、次の瞬間に落ちながらローリングしている。
「おおぅ」
ルシールの『エレメンタルブラスト』でもここ迄の威力は再現出来ないかもしれない。
落ちながら回ると言う新感覚だ。
回り続けながら今度は縦回転に移行してぐるぐる回って行くが同時に俺の内臓がシェイクされて行く。
お昼に食べたラッターバーガーも胃腸を飛び超えてシェイクされている。
どう考えても食事後すぐに乗るような乗り物では無い。
完全に選択ミスを犯してしまったようだ。
重力に顔の動きを阻害されながらも、目線を動かして横の春香を見て見たが、笑っている。
何と楽しそうに笑っているではないか。
この状況にもかかわらず天使のような笑顔を浮かべている。
この瞬間俺は悟った。
俺は絶叫マシーンが苦手だ。もしかしたら両親と遊園地に行った記憶が無いのは、両親も苦手だったのかも知れない。
小学生の遠足の時は、テンションが上がっていたのか、それとも記憶にないだけで乗れる乗り物を限定されていたのかも知れない。
そしてこの笑顔を見る限り春香は絶叫マシーンが得意というか好きなのだろう。
今更この状況でどうしようも無い事に気がついてしまったが、今この時怖いものは怖い!
「うっわあああ〜」
春香が横にいるので絶叫する事は出来ない。極限まで声を押し殺すが、口から音が漏れてしまう。
俺の都合など考慮してくれるはずもなくヘブンズフォールラッターは、更に加速を続ける。
俺の足が空中に浮いている。
俺はこの時改めて気がついた。
人間は地上から離れては生きていけないのだと。
しっかりと地に足をつけて生きていかなければいけないのだと。
進行方向を見ると撮影用のカメラが見える。
朝の失敗を繰り返す訳にはいかないので、必死で顔の筋肉を動かして笑顔を作る。
それと同時にカメラの前を過ぎ去って行く。
俺は成し遂げた。朝の失敗から学び写真に笑顔で写ることに成功したと思うが、成功の余韻に浸る暇もなくクライマックスが訪れた。
最後は横回転を続けながらの縦の大回転が待ち構えていた。
横回転と縦回転が同時に襲ってくるが、こんなの見た事無い。
「ふううううぅ〜」
内臓という内臓が全方位から圧力を受け、口から変な音と共に肺の中の空気も押し出されて行く。
ゴッドサンダースプラッシュを作った人もおかしいのかと思ったが、ヘブンズフォールラッターを作った人も正常とは思えない。狂っている。
テーマパークのコンセプトから完全に外れている。これをファミリーで乗る人の気が知れない。
コンセプトの1つである夢の国だが、これに乗ると違う国に行けそうだ。
必死で肩口のバーにしがみついて回転に耐えているうちにようやく終了を迎える事が出来た。
「皆さ〜ん。天国体験できましたか〜またのお越しをお待ちしております」
と場違いな程に明るく元気なキャストの声と共に固定バーを外されて俺はこの天国体験から解放された。
「海斗、すごかったね。空いてたらもう1回乗りたいぐらいだよ」
「ああ……そう、だね」
「海斗はどうだった?」
「う、うん。楽しかったよ」
「あ〜写真だよ」
ふわふわする足を押さえ込み出口を歩いて行くと先程撮られた写真が並んでいた。
今度は大丈夫なはずなので余裕を持って写真を探してみる。
「海斗、ちょっと表情が固くない?」
春香に言われて見ている写真を確認したが、残念ながら俺の顔は笑顔を写してはいなかった。
そこに写っていた俺は、確かに口角が少し上がっているのが見て取れるが、目は全く笑っていなかった。
あれ程頑張った笑顔を作る努力は完全に失敗に終わったらしい。