A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (446)
第444話 アラクネ
アラクネは2体いるので左側の個体はサーバント達に任せて俺は右側の個体に向かって行くが、スピードと動きが蜘蛛ならではのイレギュラーな物で上手く追尾出来ない。
先を行くあいりさんも同じ状況に陥っているが、突然移動を繰り返しているアラクネのお尻の部分からあいりさんに向かって何かが放出された。
「うわあっ!」
放出されたものは、そのままあいりさんに命中し、その瞬間あいりさんが走りながらバタッと倒れた。
何だ?
俺は後方から走りながらあいりさんの元に急ぐ。
「あいりさん!大丈夫ですか?」
「ああ、私のことよりアラクネを追ってくれ」
あいりさんを見ると半透明の粘着性の物が全身に付着して動けなくなっていた。
糸か!
どうやらアラクネは糸をネットの様に放出して、とりもちの様にあいりさんの動きを封じ込めてしまったみたいだ。
今の所命には別状がなさそうなので、糸自体に殺傷能力があるわけでは無いようだ。
ただ動きを止める為のネットの様だが、ソロであればこれだけで詰んでしまうので戦闘時の効果は計り知れない。
長く止まると俺も糸をくらう可能性があるので、気にはなったがあいりさんを残してアラクネに向かう。
俺は糸の攻撃を警戒して、少し距離がある状態から『ドラグナー』を放つが、信じられない事にアラクネは一気に数メートル飛び上がって避けた。
「これを避けるのか」
『ドラグナー』の一撃を完全に避けられたのはこれが初めてだが、驚きと共に妙に納得してしまう自分がいる。
流石はリアルホラーハウスの主………
『ボンッ』
俺が妙な納得をしている間にミクの火球がアラクネの胴体を捕らえる。
胴体に命中した火球はアラクネの胴体に生えていた生毛の様なものに引火して、瞬間的に燃え上がったものの蜘蛛の外殻を破る事は出来なかった様で、アラクネはそのまま移動を続けている。
もう1体のアラクネはベルリアが追いついて既に交戦をしていたが2刀のベルリアに対してアラクネは8本の足で対抗している。
強靭な8本の足は、さながら8刀流だが、ベルリアが技術で勝り押し込んでいっている様に見える。
俺は自分の相手に集中し直して走る速度を上げるが、さっき声をあげたせいである程度場所を把握されているのか、俺に向かって前方を走っているアラクネが粘糸のネットを放出して来た。
俺自身の速度も上がっているので向かってくる糸のネットのスピードはかなりのものとなっていたが、アサシンの効果ではっきりとこちらに向かって飛んでくるのが見える。
いつもは、ほんの少しだけ相手の動きが遅く見えるだけなのだが、今は完全にネットの動きが見えている。
アサシンの効果で動きが見えても俺の動きが速くなった訳ではないので視覚情報を元に一刻も早く動き出さなければならないが、目の前に迫って来た糸はネット状に広がり思った以上に逃げ場が無い。
やばい!
俺は必死に避ける為に動き始めるが、動いたその瞬間いつもとは違う感覚に襲われた。
普段はゆっくりと見える風景の中をゆっくりな俺が先手を取り必死に動く様な感覚だが、今は周りの景色はいつも以上にゆっくりと迫ってくるが動いた俺の身体は、普通の速度で動いているイメージだ。
つまり周りがゆっくり動いている中を俺だけが普通のスピードで動けている感覚。俺だけが違う時間軸で動いている様な違和感を感じながら身体を動かすと、難なくアラクネの粘糸のネットを避ける事が出来た。
「なんだ……今の」
今一瞬の事ではあったが、明らかに俺の移動速度は周りの時間経過よりも速かった……。
まだだ!
ネットを躱したがアラクネにダメージを与えた訳ではないので、すぐ様バルザードを構え直して距離を詰めるべく前方へと踏み出した。