A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (449)
第447話 シークレットウエポンのすすめ
手で掴めば粘糸に囚われる。
バルザードで斬れば、あいりさんの髪まで斬れてしまう。
女性の命ともいうべき髪を斬ってしまう行為は俺にはこれ以上出来ない。
それに髪だけでなく他の場所も傷つけてしまいそうで怖い。
最悪の状況の中で残りのメンバーにも意見を聞きたくて目をやるがヒカリンとミクだけでなくシルとルシェも何も言ってはくれない。
誰も妙案が浮かばないのだろう。正直手詰まりだ。アラクネは倒したのにその後でこれ程困った事態になるとは全く予測出来なかった。
「………どうしよう」
俺の呟きにも誰も答えてはくれない。
このまま置いて帰るわけにはいかないのでベルリアの方の糸は最悪の場合焼くか……
ベルリアは悪魔だから大丈夫か?
いや『ダークキュア』があるとはいえ流石にな〜
目の前でベルリアが火ダルマになったら………
「ベルリア………」
「マイロード、どうかされましたか」
「………うん何でもない」
俺には出来ない………無理だ。
この粘糸は、何と無くベタベタしているが燃える時は一気に燃え上がりそうな気がする。
あまりにリスキーすぎる。
「海斗、ベルリアの奴燃やしてみるか?」
「ルシェお前もか………」
「は?どういう意味だ?シルも言ってただろ。わたしは海斗の剣だからな。やる時は殺るぞ」
「いや……殺らないでいい」
ルシェも俺と同じ答えにたどり着いたようだが本当に殺りそうで怖い。
どうにかベルリアを燃やさずにこの事態を回避できないだろうか?
カードに戻す事も考えたが、戻したところで糸だけが消えるとは考え難い。
いっその事このまま1階層の出口まで飛んで、他の探索者に助けてもらうか。
ベルリアを燃やすよりは遥かにいい考えに思える。
「う〜ん」
真剣に考えすぎて頭が煮詰まって来てしまったが、煮詰まった末に閃光のように頭の中に浮かんで来た。
俺にはあれがあった。いざという時のあれが。
俺のシークレットウェポンがまだ残っていた。
通常の武器がダメでもあれならいけるはずだ。
俺にとって最終兵器ともいうべきマジックシザーがあった。
「みんな、まだ手があった。ちょっと待ってて」
俺はリュックからシークレットウェポンであるマジックシザーを取り出して、試しにあいりさんに絡まっている粘糸を切ってみた。
「ジョキッ!」
「おおっ!」
気持ちの良い音と共に糸が抵抗なく切れた。
「みんな切れた!これでいけるぞ!」
そこからの俺は速かった。
あいりさんに絡まった糸を全て切り離し、その後すぐにベルリアの糸も切り離す事に成功した。
「あいりさん、よかったのです」
「心配しましたよ。あいりさん」
「ああ、助かってよかったよ。流石に今回は燃やされるのかと焦ってしまった。次からは気をつけるようにするよ」
「ベルリアも無事でよかったな」
「マイロード、燃やされずに済んで良かったです。このベルリア炎ぐらい耐え切って見せますが、燃やされないに越した事はありませんので」
「そうだな……」
それにしても手強かった。今後絶対にアラクネの粘糸は食らわないようにしないといけない。
マジックシザーが有効なのは分かったがマジックシザーは俺の持っている1点だけなので俺が囚われてしまうと抜け出せなくなってしまう。
「みんな、やっぱりマジックシザーを1人1個買わないか?」
「う〜ん私はいいかな」
「私も海斗さんが持っているのでいいと思います」
「買っても使い道が……」
前回の根に足を取られた時といい、このマジックシザーの有用性は証明されていると思うがなぜかメンバーの反応が芳しくない。
いざという時のシークレットウェポン。そして有事の時には自分の髪のセルフカットにも使える。
いろんな物を手軽に切る事が出来るマジックシザーはやっぱり俺の一押しアイテムだ。