A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (450)
第448話 大人の味
「全然取れませんね」
粘糸を切断してベルリアもあいりさんも無事に動けるようにはなったが、ベトベトに糸がまとわりついていて綺麗には取れなかった。
「ウォーターボール」
水の玉を出して洗ってみているがベトベトしたのが上手く取れない。
「洗剤とかたわしとかが無いと取れなさそうですね」
「みんなの迷惑にはなりたく無い。このまま探索を続けよう」
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だと思う」
あいりさんのたっての希望で探索を再開してみたが、どう考えても無理があったので10分ほどで諦めた。
「すまないが、今日はこれで引き上げてもいいだろうか?」
「そうですね。この状態で続けるのは難しそうですね。帰りましょうか」
やはり全身ベトベトの状態での探索は集中を欠き危ないので、少し早いが切り上げる事にした。
このまま帰るのは、かなり厳しいので1度1階層に飛んでから10階層に戻ってシャワーを浴びる事にした。
「ベルリア……ベトベトだな。落ちそうか?」
「マイロードこの程度の事は全く問題ありません。鎧は洗えば大丈夫です」
「そうか」
久しぶりのシャワーは気持ちが良かったが、手持ちの石鹸だけではベルリアについたネバネバを全て取り切る事は出来なかったので適当なところで我慢してもらうしかなかった。
あいりさんに至ってはフルアーマーを装備しているわけでも無いので、ダイレクトに服がベトベトになっており、洗っても取れそうに無いとのことで、諦めて家に帰ってから処分する事になった。
「あいりさん、これ使ってください」
「いいのか?すまないな」
「気にしなくて大丈夫ですよ。昨日洗ったやつなんで汚くは無いと思います」
「ああ、ありがとう」
あいりさんにベトベトのまま帰らすわけにはいかないので俺は自分が行き帰りの為に持ってきていたグレーのパーカーを貸す事にした。
流石に臭いからいらないとか言われたらショックで立ち直れ無さそうなので、普通に受け取ってくれて良かった。
この日は、このまま解散となったので家路についた。
半袖で帰るとまだ少し寒かったが、もう少しで丁度いい季節になりそうだ。
家に帰ると今日の夕飯は俺の好物であるカレーだったが、今日は何故か辛口と中辛を合わせたルーを使用していた。完食したものの大人の味は俺の身体には合わなかったようで、食べてしばらくするとお腹が痛くなってしまった。
やはりカレーは甘口と中辛を合わせたものが1番美味しくて身体にも優しいようだ。
母親にお腹が痛くなった件を伝えてみたが
「海斗は、まだまだお子様ね〜」
の一言で笑って終わらされてしまった。
そこまで心配して欲しい訳では無いが、少しは真剣に受け止めて欲しいものだ。
母親は俺が高校生になったぐらいから時々こういう事をやってくる。
突然コーヒーをブラックで出して来たり、麻婆豆腐の辛さを激辛にしてみたりして俺の反応を伺ってくるが、未だに俺はコーヒーにミルクと砂糖を入れないと飲めないし、麻婆豆腐はピリ辛ぐらいが好みだ。
母親が言うようにまだまだお子様なのか大人の味は口には合わないらしい。
この日は12時前にベッドに入り次の日起きると、全身が筋肉痛になっていた。特に両足の筋肉痛は酷く、ベッドから起き上がって普通に歩ける様になるまでに少しの時間とストレッチを要した。
久しぶりに重度の筋肉痛だ。
これは、昨日の動きのせいか?
とも思ったが確かめようも無いので、少し筋肉痛が残ったままだがそのままダンジョンへと向かう事にした。
「海斗、パーカーは洗濯してるから乾いたら返すよ。助かった」
「別にそのままで全然良かったのに。気を使わせて逆にすいません」
「海斗さんて、結構さりげなく女の子に優しく出来ますよね」
「え?そうかな」
「そうね。それが不思議なところよね〜。彼女とは全く進展がなさそうなのに、こう言う事はさらっと出来るのよね。本当に不思議だわ」
「不思議ってなんだよ。別に女の子でも男でも困ってたら普通ちょっとぐらい助けたりするだろ」
「人に何かをする余裕があったらさっさと告白して付き合えばいいのに」
「そうですよ。いっそのこと告白飛び越してちゅーとかすればいいのですよ」
「お、おい。な、なにを言い出すんだ。ば、ばかな事を言うなよ」
「いや、海斗の場合案外有りかもしれないぞ」
「あいりさんもやめてください。訴えられたらどうするんですか。同級生を勘違いで襲った少年Aとか報道されてそうで怖すぎますよ」
「海斗、流石にそれは無いと思うから思い切っていってみなさいよ。ダメでも思いっきり殴られるぐらいだと思うわよ」
「えぇぇ……」