A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (472)
第470話 戦鬼
俺が駆け出したのとほぼ同時にベルリアとあいりさんも大鬼を目指して駆け出すのが見えた。
女鬼に近づいて見ると大鬼に比べるとかなり人に近い風貌をしている。
背丈はほぼ俺と同じぐらいで顔も角が無ければそれ程人と変わらないが目が赤い。
女鬼も俺が相手と認識した様な動きを見せているので、完全に認識阻害をできている訳では無さそうだ。
先手必勝!
走りながらバルザードの斬撃を飛ばす。
見えない斬撃であれば必中だと思ったのだが、気配を感じたのか斬撃を放った直後、女鬼が大きく横に飛び跳ねて避けられてしまった。
人よりも気配察知に優れているのかもしれないが、俺は慌てずそのまま距離を詰めて行く。
態勢を整えた女鬼は両方の手に持つ小刀を振るって来たが、小刀を振るった瞬間炎の刃が発生して俺の方に飛んで来た。
小刀から炎が飛び出るとは考えてもなかったので、かなりびっくりしたが、やはり正確に俺の位置を把握している訳ではない様で俺の走る横を通過して行った。
命中はしなかったが、油断すると危ない。
俺はそのままスピードを殺さず女鬼を目指すが、女鬼も間合いを詰めさせる気がないのか、後方に駆け出して
行く。
さっきも感じたが、やはりこの女鬼はかなりのスピードだ。俺よりも速い。
俺も女鬼に向かって走っているのに距離が一向に縮まらない。
『アイアンボール』
「ガアアアアアアアアァ〜」
あいりさんの声と共に尋常では無い叫び声が聞こえて来たので声の方に目をやるが、あいりさんが動きの鈍った大鬼に向かって鉄球を放ったのが見えた。横目に見ただけなのではっきりとは見えなかったが、恐らくあの位置はあれだ。
いくら大鬼が頑強でもヴァンパイア戦で鍛え抜かれた鉄球をあの場所にくらっては、再生能力が無ければ、ほぼ終了となる事だろう。
大鬼の着ている浴衣は、ほぼ防御力はゼロだろう。大鬼自身の外皮の防御力は高そうだが、あの場所の防御力が高いとは思えない。
ヴァンパイア戦は図らずも、1人の鬼を生んでしまったのかもしれない。
あの戦いは情けを知らない男系モンスターの天敵、戦いの鬼『戦鬼』を生む結果となったのだろう。
やはりあいりさんを怒らせてはいけない事を再認識させられた。
大鬼の消滅を確信したので気を取り直し再び女鬼を追うが、一向に距離が詰まらないので理力の手袋の力を使い前方を走る女鬼の足首を思いっきり掴んでやった。
すぐに振り解かれてしまったが、一瞬女鬼のスピードを殺す事に成功した。
その間に俺は女鬼との距離を一気に詰めて接近してバルザードを振るう。
『キィイン』
女鬼が完全には見えてないはずの俺の攻撃を十字に構えた小太刀で受け止めた。
「くっ……」
体格は、ほぼ同じでも相手はモンスターである鬼なので俺よりも膂力に優れている様で全力で押してもびくともしない。
女鬼が膠着状態の俺に向けて十字に構えていたうちの一刀を横薙ぎに放って来た。
焦った俺は避ける為にバックステップを踏むが避けきれず女鬼の一撃を脇腹にくらってしまった。
「海斗!」
追撃をかけて来た女鬼に向かってミクが火球を連続で撃ち込んで動きを阻んでくれる。
脇に加えられた衝撃で一瞬呼吸が止まってしまい、同時に動きも止まってしまった。
ミクのお陰で時間を稼ぐ事が出来た俺は、止まった呼吸を取り戻すべく大きく息を吸い込んでから一歩下がって態勢を立て直し『ドラグナー』の引き金を引き銃弾を放ったが近距離で放った銃弾は避けられる事なく女鬼の胸の部分に風穴を開けた。
「あぁ…………」
女鬼が動きを止め何か言葉にならない言葉を発しようとしたが、間髪入れずにバルザードで追撃を入れ消滅に追いやる事が出来た。
思った以上に苦戦してしまった。