A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (495)
第493話 陰の本懐
あいりさんが動きを止めた鬼に向かって攻撃をかける。
俺はそのまま、あいりさんの背後から飛び出すと同時に加速して鬼の背後に回り込む。
あいりさんが完全に鬼の意識を前方に集中してくれているので背中はガラ空きだ。
とにかく無音。派手さは必要無い。素早く動き、一気に仕留める。
背後から無音で距離を詰めてガラ空きの首に向かってバルザードを一閃する。
俺が目立つ必要は無い。他のメンバーが輝きを放てば放つ程俺は目立たずに一撃を放てる。
俺は英雄になりたい。
英雄とは陽の極地。
なので戦闘でも主役を演じられる様に頑張っている。
ただ俺は隠キャではないが、俺の戦闘の本質は隠。影から攻撃する時が1番力を発揮できる気がする。
スキルと合わさってアサシン化が進むのは避けたいが、人間の本質はそう変わる物では無い。
とにかくあれ程苦戦した鬼にも影からの攻撃であっさりと勝利してしまった。
嬉しい反面、複雑だ………
あいりさんはどう考えても主役。
ミクとヒカリンも端役にはなり得ないだろう。
俺は、敵役?それとも陰で動いて画面には出て来ない黒子?
俺が光り輝く陽の極地に到達するイメージは残念ながら湧かない。
是非ともアニメ制作会社には、陰の者が主役の大ヒットアニメを生み出してもらいたい。
世の中の英雄像にアサシンや背後から止めをさすキャラクターが加わるべく頑張っていただきたい。
きっとそっちの方が可能性がある気がする。
是非アニメーターの方々には既存の常識、概念を覆す様な世界的ヒット作を生み出して頂きたい。
英雄とは隠の極地のイメージを刷り込んでもらいたい。
無事に鬼を倒したので他の2人に目をやると、いつも通りの展開が繰り広げられており、シルはあっさりと鬼を退けていた。
高火力こそ正義というのをまざまざと見せつけてくれているので頼もしい限りだ。
逆にベルリアの方は思った以上に苦戦している。
スナッチの『かまいたち』で脚が落ちたので、鬼蜘蛛の脚はあまり強度がないのかと思ったが、どうやらたまたま関節部分の弱い箇所にヒットしただけだった様で、普通にベルリアによる剣戟を防いでいる。
2本少なくなっているとはいえ、ほぼ前面の全てをカバーしているので攻撃が通っていない。
だがこれは………
完全に前面をカバーしている。
が後面はガラ空きだ。
これは俺か?俺の出番だよな。
俺は再び無となる。
そして影となり、こっそり鬼蜘蛛の後方目指して進み出す。
決して足音を立ててはならない。決して気取られてはならない。速さよりも無音を優先する。
鬼蜘蛛はベルリアの猛攻に気を取られてこちらには全く意識を向けていない。
しかも都合よく、剣と蜘蛛脚が触れるたびに金属音が響き渡っており、俺の移動音を完全にかき消してくれている。
スルスルと鬼蜘蛛に近づいて行きその距離はおよそ4M。あと少しで俺の間合い入る。
周りのメンバーも俺の意図を把握しているのか、俺の行動を妨げる様な動きは誰も見せない。
変化は違和感を生む。
そのままの姿勢を保ちながら間合いをゆっくりと詰めて行く。
あと2M。
手を伸ばせば届く寸前の距離。
飛び込めば間合いに入る距離だが、俺はそのままの足運びで鬼蜘蛛との距離をもう50CM詰めた。
そしてもう一歩踏み出すと同時にそのまま無言でバルザードを横に一振りして鬼の首を落とす事に成功した。
「海斗さん、影度が上がりましたね」
これは褒め言葉なのか?
しかも影度って初めて聞いたけど。
MPも消費する事なく、静かに戦闘は終了したが、俺は誰に悟られる事も無く密かに消耗していた。
この無になって移動する事は地味に神経をすり減らし、思いの外疲れてしまう。
これは俺が完全なる隠キャではなく、ただの地味キャラだからかもしれない。