A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (507)
第505話 婆が爺
鬼ババアが怒りの表情を浮かべこちらを威嚇してくるが、手には出刃包丁の様なものを持っている。
ただ、ナイフぐらいの大きさしか無く見た目の雰囲気以外には怖さを感じない。
何か特殊攻撃でも仕掛けてくるのか?
「い、いや〜!来ないで、お爺ちゃん。お爺ちゃんがいっぱい…………あああっ」
ヒカリンの叫び声が後方から聞こえてきたので慌てて振り向くが、怯えた様なヒカリンがいる以外は特に何も変わった様子はない。
「ヒカリン!どうした。何か出たのか?」
「いや、いやなのです。お爺さんが………お爺さんが、一杯………」
お爺さんが一杯…………
何かの冗談かとも思ったが、普通に考えてそれは無い。
あの鬼ババアににより何らかの攻撃をくらった可能性が高い。
恐らく精神系の攻撃。
しかしお爺さんが一杯ってあれはお婆さんだぞ?
お婆さんがお爺さんに見えてるのか?
しかも一杯。
一体、どんな精神攻撃なんだ?
「ああっ、助けてっ………お爺さんが………」
今度はミクまでもお爺さんに汚染されてしまったようだ。
「あいりさん、突っ込みます。ルシェも頼んだ」
時間をおけば俺も精神攻撃を受ける可能性もあるので、迷わず突っ込んで行く。
鬼ババアは、老人とは思えない身のこなしで俺を迎え撃つべく向かって来た。
速い………俺よりもしかして速いか?
老婆が出刃包丁を持ちこのスピードで向かってくるとは、確かに恐怖の対象でしか無いが、俺にはババアにしか見えないので精神汚染はされていないのが自分で分かる。
バルザードを振るい首を狙うが、見た目にそぐわない素早い動きで頭を下げ、躱されてしまった。
「年寄りはいたわれや〜!!このガキが!」
おおっ!喋った。この鬼ババア喋れるのか。人型だし不思議はないが、驚きだ。
「年寄りは大人しくしといて下さい」
「くそガキ!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
流石は鬼ババア、狂っているのか全く話にならない。
これでも人間のお婆さんであれば我慢もするが、ツノが生えた完全なる鬼ババアなので容赦はしない。
「死ぬわけないだろ。お前が死ね!」
俺が『ドラグナー』を即座に放つと青い光の糸を引いた銃弾は鬼ババアの頭部を捉えて撃ち抜くが、気を抜かずに鬼ババアを注視する。
やはり、鬼ババアは消滅する事なく再生の兆しが見えたので、即座にバルザードで首を刎ねる。
もう1体を見ると戦っているのはあいりさんでは無く、ルシェが獄炎で燃やし尽くしていた。
あいりさんは?
俺のすぐ後に走り出していたはずだがどこに行った?
「ああっ……じじ……じじ……怖い」
なんと俺の後ろであいりさんも意味不明の精神攻撃を受け戦闘不能に陥っていた。
ただ3人共同じ攻撃を受けている様で共通点はお爺さん。
お爺さんが大挙して押し寄せているのか?
それともお爺さんの鬼に襲われているのか?
外からでは分からないが、既に鬼ババア3体は消滅しているにもかかわらず、精神汚染は解けていない。
「あいりさんしっかりしてください!俺が分かりますか?」
「ああ………じじ」
だめだ、揺すったぐらいじゃ解けない。
前みたいにやらないとダメなのか?
でも俺じゃ無理だ………
「ルシェ、頼んだ」
「なんでわたしなんだよ。だらしが無いな。貸しだぞ貸し!」
「いや、貸しは困る」
「ふん、ケチな奴だな。まあいい、おいあいり、寝ぼけてんじゃ無いぞ、さっさと起きろ『バチ〜ン』」
「はっ……ルシェ様、ここは?じじは………」
「まだ寝ぼけてんのか?お前は鬼ババアの攻撃でやられたんだよ」
「もしや、ルシェ様が」
「ああ、わたしが起こしてやったんだ」
「ああっ、やはりそうですか。この頬の痛みはルシェ様の愛……」
「ふん、もうやられんなよ」
「はい。ありがとうございます」
このやり取りであいりさんは無事に正気を取り戻した。