A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (521)
第519話 攻防
どれだけの時間が経過しただろうか? 一時間にも二時間にも感じてしまうが、実際には数十分に過ぎないのだろうか?
既にルシールも去りあいりさんも戦線復帰しているが、俺は既に限界を迎えている。
『アサシン』の能力覚醒により鬼を正面から撃破出来ているが、リバウンドで動きがどんどん鈍くなって来ている。
敵を見ると、少し減って来た気はするので、無限増殖している訳ではないらしい。
「ヒカリン!」
今度はミクの声が後方から聞こえて来たので慌てて声の方に目を向けるが、ヒカリンが真っ青な顔で膝をついていた。
あの感じは魔力切れか……
「ミク! ヒカリンにマジックポーションを!」
「でも私、低級マジックポーションしか持ってない」
「それでもいいから、早く!」
魔力切れの状態は死ぬ訳では無いが、著しく体調不良となる。
そのままでは戦えるような状態では無いので一刻も早く回復する必要がある。
「ヒカリン、ごめん」
意を決したミクが低級マジックポーションの蓋を開け、真っ青なヒカリンの口に向けて流し込んだ。
「ううううううぅぅぅ……オエッ」
ヒカリンの悲鳴とも取れる声が上がるが、なんとか低級ポーションを飲み干した様だ。
苦虫をつぶした様な初めてみるヒカリンの表情だが、マジックポーションの効果で顔色は戻って来た様だ。
「海斗さんミクさん、恨みますよ。ううっ」
目の前の敵を相手にしながらも、他のメンバーの事まで気を回せているのは、やはりアサシンの効果により感覚が広く鋭くなっているからの様な気がする。
『バキィイイン』
この金属音は……
ああ……
遂に来てしまった。
ベルリアの持っていたブロードソードが折れた音だった。
バスタードソードが先に折れてしまったので、可能性は考えていたが、このタイミングで折れるのか……
確かにここまで急激に負荷をかけているので数打ちのベルリアの剣が限界を迎えてもおかしくは無い。
だが二本ともこのタイミングで折れるのか……
『ヘルブレイド』が消耗を加速したのかもしれない。
ベルリアも手元に残った刃の部分で果敢に鬼と渡り合っているが、どう考えても長くは持ちそうに無い。
徒手空拳。ベルリアなら鬼と渡り合えるかもしれないが、どう考えても倒す事は出来ないだろう。
どうすればいいんだ。
猶予は無い。
「ベルリア! これを使え!」
「マイロードそれは……」
「いいから使え!」
俺はベルリアに向けてバルザートを投げて渡した。
悩んだがこれしか無い。
ベルリアにバルザートを使わせ、俺は『ドラグナー』で戦う。
受け止める剣もとどめをさす剣もない事に不安がないと言えば嘘になるが、『ドラグナー』を至近距離から放ち首に当てる。
アサシンの能力が覚醒している今なら何とかなる。いやなんとかするしかない。
目の前の鬼が俺が武器を手放したのを見て一気に攻勢に出てきた。
今の俺には防ぐ武器は無い。
神経を集中して鬼の動きを見切る。振るって来る刀に対しての動きはサイドステップとバックステップの二つしか無いので、振り出してくる瞬間に判断して避ける。
いくら俺がアサシンの効果で速く動けるとは言え、タイミングを間違えると普通に斬られるので、とにかく目の前の鬼にだけ集中する。左からの袈裟斬りに対して、右ではなく左への移動を選択し、完全に鬼の側面を取った。
五十センチ程の距離にある鬼の首に向かって『ドラグナー』を躊躇なく放つ。
蒼い閃光が走り弾丸が首に着弾し胴体から頭部を飛ばして消滅に追いやる事に成功した。
これなら『ドラグナー』だけでもいける。
ベルリアもバルザートを振るい鬼を退けているが、鬼を倒し切るのが先か、俺達の体力が尽きるのが先か、それ程先では無い未来に決着がつきそうだ。