A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (523)
第521話 力尽きる
俺は直接的なダメージはほとんどくらっていない。
掠った程度で明確なダメージは負っていないのでHPはまだ大丈夫だ。
だけど、身体が悲鳴を上げて動かなくなって来た。もう足が動かない……
そしてMPが尽きてしまったので覚悟を決めて最後のマジックポーションを飲み切る。
「ガハァ……」
戦闘への集中力を完全に削いでしまうまずさだ。
MPが回復するが、もう近接戦闘は無理なので目に入って来る鬼に向かってドラグナーを連発する。
もうMPが尽きるまで打ち尽くすしか術が無い。
前方ではヒカリンの放った『ファイアボルト』が炸裂しているのも見える。
みんな分かっている。
ここが勝負所だ。
これ以上は俺達は凌ぎ切れない。ここで完全に押し切ってしまうしかない。
あいりさんの『アイアンボール』も放たれ、完全に弾幕が出来上がっているが、MPはどんどん剥られているので猶予はない。
「ルシェ! 前に出てくれ! 俺が代わる」
ルシェに守りを捨てて完全に攻撃に参加してもらう。
敵の数も減って来ているし、俺と他のメンバーでこの場は凌ぐ。
「あ〜さっさと死ね! あの奥にいるのがボスか? あいつら倒せば終わりか?」
ルシェの声に反応して奥を見ると確かに、見た事のない鬼が2体立っている。
今まで鬼の群れで奥の状況まで確認出来なかったが、さすがに数が減って来た今なら確認出来る。
明らかに他の鬼とは一線を画す威圧感と風貌。
一体は青、もう一体は白い肌をしており、2体とも猛獣を思わすような、鋭い眼光と体躯をしている。
「あれは……まさか無……いや、虎熊童子と熊童子か?」
「あいりさん、あいつらの事知ってるんですか?」
「確証は無いが、あの風貌、青と白。大江山四天王の二鬼だ」
「大江山ってあいりさんの家の近くなんですか?」
「何を馬鹿な事を! 大江山は今の京都だ」
「京都の鬼なんですか?」
「ああ、それなりにメジャーな鬼だ。何しろ四天王だからな」
鬼だけど王なんだな。それにしてもあいりさん、鬼に詳しすぎだろ。
いずれにしても、俺達メンバーはいずれ援護も出来なくなる。
であれば今しかない。
「シル、ルシェ、あの二体を倒せ! ベルリア、ルシールと周りの鬼を蹴散らせ。ミク、スナッチを前に出してくれ」
ここに全てを注ぎ込む。
これを凌がれたら、サーバントはともかく俺達はもう後がない。
俺の指示を受けてスナッチが前面に踊り出し『ヘッジホッグ』をかける。
俺達も残るMPを投入して遠距離攻撃をかける。
シルとルシェは、周囲を突破して虎熊童子と熊童子の前にたどり着いたようだ。
後は二人に託すしかない。
シルとルシェを前に虎熊童子と熊童子も動き出した。
それぞれ、斧と刀を持っているが振るうとそれぞれ、虎と龍を思わせる衝撃波のようなものが放出されている。
あれはスキルか?
二人共上手く避けてはいるようだが強敵なのは間違い無さそうだ。
俺達も自分達の役目を果たす。
「ヒカリン! 融合魔法をあそこに放って!」
ルシールが消えてしまう前に全ての鬼を掃討したい。
「はい、わかったのです」
ヒカリンが融合魔法で鬼1体を消滅に追いやり、こんな状況にもかかわらずベルリアは念願のバルザードを振るえてテンションが上がりまくったのか、いつになく戦場で輝いている。
一方俺は、『ドラグナー』を連発してMPが尽きてこれ以上は『ドラグナー』を放つ事が出来無くなってしまった。
これで俺はもう全て出し尽くした……
俺にはもう出来る事は何もない。
後はみんなに託すしかない。
「おい! 海斗! まだHPは残ってるんだろう。 絞り出せ!」
俺が燃え尽きようとしていた時、ルシェの容赦のない声が聞こえて来た。