A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (532)
第530話 素晴らしきかな入院
「あら、春香ちゃん久しぶりね〜」
「あ、おばさんお邪魔してます」
「春香ちゃんが来てるなら私は来なくてもよかったかしら」
「もし用があったら言ってください。私のできる事ならお手伝いします」
「それじゃあ、悪いんだけど、学校が終わってからでいいから海斗のお世話を頼んでいいかしら。退院がいつなのかはっきりしないのよね」
「はい、もちろん大丈夫です」
「それにしても春香ちゃん、綺麗になったわね〜。春香ちゃんのママとは最近よく連絡取り合ってるのよ」
「いえ……。あの、ママとは何を……」
「そりゃあ、受験の事とかいろいろよ。いろいろ。春香ちゃんは王華学院を受けるのよね。なんかうちの海斗も受けるって聞かないのよ。プロの探索者目指してるのにどうして王華学院に行きたいのかしら。ね〜海斗」
「そ、それは素晴らしい学校だからに決まってるだろ。もういいから帰ってくれよ」
「あら、来たばっかりなのに追い返すのね。それじゃあ春香ちゃんよろしくね〜」
「はい」
なんだ今の母親の振りは? 一体何がしたかったんだ。焦ってしまったじゃないか。
「あ、海斗ご飯が来たみたいだよ」
「ああ、今日のご飯はなんだろう」
「おかゆと、ほうれん草のお浸しとスープと魚の塩焼きだけど……どれも海斗には少なめかも」
「まあ、一応病院食だから」
「それじゃあ起きるの無理そうだから、ベッドを少しだけ起こして寝たままで食べさせてあげるね」
そう言って春香が電動でベッドを起こしてくれたが、それだけで背中の筋肉が悲鳴を上げているが春香の前なので平静を装う。
「それじゃあ一番食べやすそうなおかゆからね」
春香がスプーンでおかゆを口まで運んでくれる。
ラブコメのように色気も雰囲気も何もないが、これは間違いなく「あ〜ん」の状況だ。
まさか俺が春香から「あ〜ん」をしてもらえる日が来るとは思っても見なかった。
口を開けておかゆを口に運んでもらう。おかゆは水分が多く、米の量は少なく味もほとんどしない。所謂病人用の病院食な感じだが俺にとってはモンスターミートに勝る味わい!
これが幸せの味か……
春香に食べさせてもらうおかゆはこんなにも美味しいのか。
というよりも味覚では無く心で食べるとでも言えばいいのだろうか。口に運んでくれる度に全身が幸福感に包まれる。
「どうかな? 病院のご飯だからそんなに美味しくないかもしれないけど」
「いや、美味しい。今まで食べた中で一番美味しい。最高だよ」
「そう? そんな風には見えないけど、調理の人が上手いのかもしれないね」
正直この味は誰が作るかは問題じゃない。誰に食べさせてもらうかが重要なんだ。
そして今は春香に食べさせてもらっている。
これ以上に幸せな事って世の中にあるだろうか? いやありはしない。あるはずがない。
「じゃあ次はお魚を食べてみる?」
そう言ってほぐした魚の身を口まで運んでくれた。
美味い。正直薄味すぎて塩焼きなのかただの焼きなのかもよく分からない。ただ最高に美味しい。
食べた事はないが国産本マグロの大トロよりもうまい。
「最高においしい」
「そう、よかったね。点滴だけでお腹が空いてたんだね」
不思議なもので点滴を一日中していると口の中にも点滴の味がして来たのだが、この魚の塩焼きはそんな事など完全に忘れさせてくれる。
ああ、魚の塩焼きって幸福と同義だったんだな。
その後も、春香がご飯を食べさせてくれたので、入院初日は最高に幸せな時間を過ごす事が出来たので、やっぱり入院って素晴らしい気がして来た。