A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (553)
第551話 さりげなくない催促
ドラゴニュートを倒した俺達は、そのあともう一度ワイバーンとの戦闘を行い、初日の攻略を終了した。
「今日はこれで切り上げましょうか」
「早くない? もう少しいけると思うんだけど」
「焦る気持ちはわかるけど、初めての階層だから無理は禁物だ。思ってるより疲労が溜まってるはずだから」
「そうだな、海斗の判断が正しいだろう。竜との戦闘はそれほど楽なものではないからな。ヒカリンがいれば融合魔法で竜を倒すシーンを見たかったところだな」
「それってあれですよね」
「ああ、あれだな」
「やっぱりあいりさんアニメ好きなんですね」
「それほどでもないよ」
俺は探索終了後にシルの『祈りの神撃』発動時に消費したマジックポーションを買いにダンジョンマーケットに向かい補充した。味の事を考えて中級マジックポーションにも心惹かれたが、結局は値段に勝るものは無く低級マジックポーションを購入した。
今日、半日の間十七階層を潜って見て、各メンバーのレベルアップと後衛のミクが『サンダースピア』を使えるようになった事で、ヒカリン抜きでも十分探索が出来るという感触は掴めた。
ただ、今日も特別探索のペースが特別早かったわけではないので密かに焦りを覚えている。ゴールデンウィークを探索に当て込めば、多少は距離を稼げると思うが、一ヶ月間にパーティで潜れる日数はおよそ十日程度。果たしてこの階層を十日で攻略できるかと言われれば、今日の感じで行くとかなり厳しい気がする。
「どうするかな〜」
ヒカリンの状態を考えると少しでも早く攻略したい。
平日俺だけで潜るか?
恐らくサーバント達がいるのでやってやれない事は無いと思うが、極端にペースが落ちるのは間違い無く、マッピングが進むかと言われれば疑問が残る。
放課後の僅かな時間だけでは、土日に進んだルートをトレースするだけで終わる可能性が高いだろう。
他のメンバーにはまだ相談していなかったが、第三の選択肢として一階層のスライム狩りにかけるというのもありかもしれないと密かに考えている。
俺の全ての始まりである一階層でのスライム狩り。そして一定の確率で現れるメタリックカラーのスライム。
あいつであればドロップに霊薬が出る可能性は十分にある。
たとえ霊薬が出なかったとしても、高額ドロップが出る可能性は高いので、霊薬の購入代金を稼げる可能性はある。かける価値は十分にあると思う。
ただ、メタリックカラーのスライムがエンカウントする為の必要数がパーティ全体に適用されているのかがわからない。
わからない以上、全員でスライムを狩る意味があるのかもわからない。
「やっぱり俺はスライム狩りに励むか」
今考えられる結論としては、土日は十七階層の攻略を目指し、平日はメタリックカラーのスライムを目指してひたすらスライムを狩るしか無い。
今後の事をいろいろ考えながら、家に戻ると今日の晩ご飯はハヤシライスだった。
おいしいのは間違い無いが、カレーとハヤシライス。やっぱり味は違っても具が一緒なのでそこまで新鮮な感じはしない。
そろそろ、焼肉かしゃぶしゃぶが食べたい。
今度帰りにスーパーに寄って自分のお金で肉だけ買ってこようかな。
「海斗、あんたゴールデンウィークの予定とか考えてるの?」
「ずっとダンジョンに潜ると思う」
「母さん、最近腰が痛いのよね〜」
「ふ〜ん」
「どこかにいい温泉とか無いかしらね〜」
「スーパー銭湯とか行けば?」
「やっぱり、泊まりでじっくり湯治したりしたいわよね〜」
「そうなんだ」
「この前の旅館よかったわよね〜」
「ああ……」
「ゴールデンウィークは空いてないのかしらね〜」
これはそういう事か。
「いや、ゴールデンウィークは俺は無理だから父さんと二人で行けるところ探しとくよ」
「え〜悪いわね〜。でも高いところはお金がちょっと……」
「ああ、そのぐらい俺が出すから二人で行ってきてよ」
「本当に〜? 悪いわね〜。孝行息子を持って幸せだわ〜」
これほど露骨な催促も珍しい気がするが、まあこのぐらいはいいかな。今月はスライムの魔核でそれなりに稼げそうだしな。
でもゴールデンウィークの温泉宿って高そうだ。