A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (568)
第566話 お願い
俺は学食のラーメンを急いで食べる。
できるだけ早く食べ終わって席を立とうと考えている。
「先輩、私食べるの遅いんで、待っててください」
「……何で俺が待たないといけないのかな?」
「それはもちろんお話があるからです」
食べ終わった瞬間に去るつもりだったが、人から用件をはっきり伝えられて、それを無視する度胸は俺には無いので通常のペースに戻して、余りおいしいとは言えないラーメンを味わう事にする。
「それで、話って何?」
「ああ、それなんですけど、先輩って探索者になってどのくらいですか?」
「ちょうど三年ぐらいだけど」
「三年で十七階層ですか」
「まあ、そうなるな」
「秘訣を教えてください」
「秘訣って何の?」
「探索者としての秘訣です」
探索者の秘訣ってやたらと抽象的な質問だな。
「特に秘訣なんかないけど、努力と継続と運じゃないか?」
「そういう抽象的なのじゃなくてもっと具体的なアドバイスをお願いします」
この子自分が抽象的な質問をしたくせに、俺の答えが抽象的って……
「そう言われてもな〜。ちなみに野村さんは今何階層なんだ?」
「え、えっと、一階層ですね」
「まあ、成り立てだったら当たり前だよな」
「そ、そうですよ。わ、わたし成り立てのルーキーですからね」
あれ? なんか急に受け答えが挙動不審になった気がするけどなんだ?
「ぱ、ぱっと一階層を攻略して二階層へ行く方法とかを教えてくれませんか?」
「あのなぁ、そんなのあるわけないだろ」
「だって先輩は、ぱぱっと二階層ぐらい攻略したんですよね」
「は〜、そんなはずないだろ。自慢じゃないけど俺ぐらい一階層で足止めくらってた探索者はいないと思うぞ」
「そ、そんなの嘘ですよ。ありえないじゃないですか。だって『黒い彗星』ですよ」
この子はまた『黒い彗星』って……何か俺の事を誤解してるのかな。
「何が勘違いがあるようだけど『黒い彗星』っていうのは、結構最近ついた名前で、その前は俺『スライムスレイヤー』って呼ばれてたから」
「スライムスレイヤーですか?」
「うん、そう。長い間一階層の住人だったからそう呼ばれてたんだ」
「嘘ですよね」
「いや本当だけど」
この子の意図がよくわからない。俺が一階層に長くいたら何がこの子に不都合があるのだろうか?
なぜか俺がすごい探索者じゃないと困るような物言いだな。
「じゃあ、二階層へ行くのにどのくらいの時間がかかりましたか?」
「一度結構早い段階で二階層まで降りたんだけど、ゴブリンに殺されかけてね、それからはずっと一階層にいたからほとんど毎日潜って丸二年かかったよ」
「二年ですか……」
「だから成り立ての野村さんはゆっくりやれは良いんじゃないかな」
「……成り立てじゃないんです」
「えっ?」
どういう意味だ?
「恥ずかしくて嘘つきましたけど、本当は私成り立てじゃないんです。もう探索者になって一年経ちました」
あ〜そういう事か。てっきり成り立てのルーキーが探索を甘く見て、お手軽に下層へ降ることができる方法を聞き出したいのだとばかり思っていたが、どうやらそうでは無いらしい。
「一年か〜。結構潜ってるの?」
「平日は難しいので土日は大体潜っています」
「二階層に降りた事はあるの?」
「はい、最近になって何度かは降りた事がありますけど、ゴブリンに勝つ自信が無くて、入り口付近ですぐに引き返しています」
「そうか……。今のレベルを聞いてもいいかな」
「はい、大丈夫です。私のレベルは4です」
正直思ったよりも野村さんのレベルは高かった。一年間、週末だけの探索でレベル4なら俺より優秀なんじゃないか?