A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (582)
第580話 焼き上がりはじっくりウェルダン
う〜ん、もう少しだとは思うんだけどな。
「ベルリア、そろそろかな」
「はい、そろそろだと思います」
俺達は全員で獄炎に包まれた金属竜を眺めている。
なかなか、燃え尽きないがさすがにそろそろだろう。
「それじゃあ、先に他のドラゴンの魔核を集めておいてくれ。あれが燃え尽きたらすぐ先に進むから」
「わかりました」
やはり、この金属竜とルシェの獄炎の相性はすこぶる悪い。
時間だけが過ぎっていく。
キャンプファイアーの炎ならじっと眺めていれば心も安らぐのだろうが、獄炎で焼かれるドラゴンを眺めてみても全く心が安らぐような事はなく、むしろ荒んでしまいそうだ。
「どうだ! 終わったぞ! 極上だろう」
ようやくドラゴンが焼失したのを確認してルシェが先程と同様に意味不明なことを言ってきているが放っておこう。
「よし、それじゃあ、その魔核を回収したら出発しよう」
「おいっ! いじめか! いじめだな!」
「そんなわけないだろ。ほら」
俺はルシェ達にスライムの魔核を渡して先を急ぐ。
「わかってるならいいんだぞ!」
金属竜と戦うことがあれば今度は『侵食の息吹』を試してみようかな。案外『破滅の獄炎』よりも早くけりがつくかもしれない。
俺達はそれからも何度か戦闘をくりかえして十六時を迎えた。
「海斗、そろそろ今日は切り上げた方がいいんじゃない」
「約束は十八時三十分だから、あと一時間ぐらいは大丈夫だけど」
「海斗、身嗜みは大事よ。もしかしてそのまま行くつもりじゃないでしょうね」
「一応は着替えていくつもりだけど」
「汗もかいてるんだからシャワーぐらい浴びて行きなさいよ。汗臭いって嫌がられるわよ」
「……そうかな」
「当たり前でしょ」
「それじゃあ、そろそろ今日は終わりにしようか」
「それがいいと思うわ」
「ああ、私もそれがいいと思うぞ」
結局ミクとあいりさんの助言もあり、少し早いが今日の探索を終了する事にして地上へと戻ることにした。
「それじゃあ、また土曜日に」
「いい報告を待ってるわよ」
「アモーレだな。頑張れ」
「今日はアモーレでご飯を食べるだけなんで特に何もありませんよ」
どうも二人は、勘違いしているような節があるが、今日は二人で誕生会のようなものなので、特に何かが起こるような事はない。
二人と別れてから、家に一旦戻ってからアドバイスに従ってシャワーで汗を流した。これで臭くないはずだ。
それから、春香と以前購入したジャケットを羽織り準備をする。
「海斗、今日春香ちゃんの誕生祝いにご飯食べにいくんでしょ」
「えっ? 俺そんな事言った?」
「この前春香ちゃんのママに聞いたのよ」
「…………」
俺のプライベートな情報が両家の親に駄々漏れだ……
悪い事をしているわけではないが、親に知られるのはかなり恥ずかしい。
「海斗、ちゃんとプレゼントは用意したの? あんた結構稼いでるんだからこんな時にケチっちゃだめよ。こういう時は目一杯のプレゼントを送るのよ。春香ちゃんだって女の子なんだから、高いプレゼントをもらって悪い気はしないわよ」
母さん‥‥発想がゲスいよ。
「大丈夫だよ。ちゃんとしたのを選んだから」
「何を贈るのよ」
「え、まあ、あれだよ」
「あれってなんのことよ」
「時計だけど」
「ふ〜ん、時計ね。海斗にしてはやるじゃない。時を刻むか……」
母さんもあいりさんと同じようなことを言ってるな。
時計のイメージの定番のセリフなのかな。
「じゃあ行ってきます」
「はいはい、じゃあ頑張ってね」
まだ少し早いが、俺は家をあとにして待ち合わせの駅前へと向かった。