A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (583)
第581話 アモーレで誕生会
駅前に着いたものの約束の時間までは、まだ二十分ほどあるので、再度プレゼントと財布の中身を確認して春香が来てくれるのを待つ。
「お待たせ。待たせちゃったかな」
「いや、俺も今来たところだから」
約束の時間の十分前に春香が来てくれた。
今日の春香は水色の長袖ロングワンピースで、春にぴったりのいで立ちだが、ロングワンピースのせいか、いつもに比べると少し大人びて見える。
とにかくかわいい。いや今日はかわいいよりもきれいと言ったほうがぴったりかもしれない。
控え目に言っても、地上に舞い降りた妖精、いやマーメイド。
「どうかしたの?」
「い、いや、ワンピースが……」
「もしかしてワンピースが似合ってなかった?」
「違う違う。逆だよ。似合ってる。凄く似合ってます」
「それならよかった。変だったらどうしようかと思ったよ」
「変なんて事は絶対にないから」
危ないところだった。見惚れてたら変な風に思われるところだったな。
「それじゃあ、お店の予約時間もあるから早速いこうか」
「うん、今日はどんなお店を予約したの?」
「イタリア料理のお店なんだけど大丈夫だった?」
「もちろんだよ。私イタリア料理大好きだよ」
「それはよかった」
予約したお店は電車でひと駅なので、早速電車に乗り、スマホでマップを確認して向かうと、降りた駅からは歩いて五分ぐらいで到着した。
「ここみたいだな。春香、予約したのこのお店なんだけど」
「ここなんだ……アモーレ」
「そういう名前みたいだけど来たことあった?」
「ううん、来たことないよ。ただお店の名前が……素敵だなと思って」
「イタリア語だよね。時間も時間だし、とりあえず中に入ろう」
そう言って春香に目をやるが、辺りは既に暗くなっているので、お店のオレンジ色の光を受けて春香の顔が少し赤い感じがするが、この春香もいい。
さっそく俺は春香を連れお店の中に入ってみる。
「すいません。六時三十分から予約の高木です」
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。それではご案内いたします」
お店は思ったよりも席数の少ない店内だったが、正にイタリア料理店という内装でおしゃれだ。
席につくと、早速飲み物のオーダーを聞かれたので、俺は無難にコーラを頼み春香はブラッディオレンジジュースを注文した。
「海斗、おしゃれなお店だね」
「うん、スマホで予約したんだけどよかったよ。料理はもう予約の時に決めてるからコースというかセットみたいなんだけどよかったかな」
「うん、もちろんだよ。今日は誘ってくれてありがとうね」
「あ、ああ、うん。春香お誕生日おめでとう」
「ありがとう。誕生日を海斗とお祝いするのって小学二年生の時以来かな」
「あの時はクラスのみんなとだったけどね」
春香もクラスの誕生会の事は覚えているらしいが、あれから十年経って春香と二人で誕生日に一緒に夕食を食べているなんて夢のようだ。
これが恋人としてだったら俺は死んでも悔いはなかっただろうが、今でも十分に幸せだ。
俺が一人幸せを噛み締めていると早速料理が運ばれてきた。
まずは生ハムのサラダ。
生ハムの塩気が絶妙で美味しい。
「生ハムが美味しいね」
「ああ、俺もそう思った。生ハムって美味しいんだな。多分豚だけど、生でも食べられるんだ」
「確か塩漬けにして長い時間をかけて熟成して殺菌してるんだったと思う」
「へ〜春香はよくそんな事知ってるな〜」
「以前テレビのクイズ番組か何かで見た気がするの」
「そうなんだ。俺も勉強になったよ」
春香とたわいもない会話をしながら食べる生ハムのサラダは絶品だ。まるで十年以上熟成したかのような味わいを感じる。
比喩表現でもなく俺一人で食べるより百倍美味しいと感じる。
今のこの美味しさに、人間の味覚は舌ではなく心と気持ちでできているのだと本気で思ってしまう。