A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (587)
第585話 チョロイン
「前澤さん、ちょっといいかな」
「何か用?」
「いや、花園さんの事で少し聞きたいんだけど、花園さんってメールとか結構淡白というか短文が多いのかな」
「え? なんで? 玲は結構いっぱい話す方だからメールとかも結構長文が多い方だけど」
「……そうなんだ。返信とかって結構遅い方だったりする?」
「いつも、すぐに返ってくるけどそれがどうかした?」
「いや、いいんだ。ありがとう」
隼人……次頑張ろう。
隼人の話していた内容が気になってしまい、余計なお世話とは思いながらも前澤さんに確認をとってしまった。
俺は、この瞬間隼人の未来に栄光あれと、心から思ってしまった。
やはり恋愛って難しいなぁ……
隼人もちょっとお調子者だけど結構いいやつなのに、花園さんのタイプじゃなかったのかな。
俺も人の事は言えないが、もう高校三年生。
学園ドラマのようなアオハルな恋愛模様を織りなすことは、俺達には難易度が高すぎるのかも知れない。
真司が羨ましい……
ただ、俺にも可能性は十分あると思いたいが、隼人の喜んでいた姿とこの現実のギャップを目の当たりにしてしまうと、俺の目に見える春香の反応も全て、俺の目が自分の都合の良いような姿を、幻の如く真実を歪曲して写し出しているだけなんじゃないかと心配になってしまい、昨日盛り上がった俺のハートが急速に冷え込んでしまった。
俺は、テンションを落としてしまった状態で放課後を迎えてダンジョンの一階層へと向かった。
ダンジョンではテンションの低さとは全く関係なく、俺の身体は染み付いた動きをトレースしていつもと変わらないペースでスライムを狩っていく。
「ご主人様、どうかされましたか?」
「え? いや別に何もないよ」
「そうですか。なにかあればいつでも私を頼ってくださいね」
「ああ、ありがとう。シルにはいつも助けられてばっかりだな。それにしても人の心ってままならないものだな……」
シルはいつも俺に優しくしてくれる。やっぱり俺の心のオアシスだ。俺の沈んだ心を癒してくれる。
「なんだあれ?」
「もしかして昨日上手くいかなかったのでしょうか?」
「ありえるな。無様にふられたのかもしれないぞ」
「そうなのでしょうか? 落ち込んでいるご主人様を見るのは心苦しいのですが、もしそうなら私達には朗報かもしれませんね」
「まあ、私達にプレゼントもくれずに浮かれてたからな。いいきみだ。ふふっ」
それにやっぱり一階層は落ち着くな〜。淡々とスライムを狩っていると、俺の中の悩みや煩悩が浄化されていくような不思議な感覚を覚える。
明鏡止水な感じで次々にスライムを狩っていくが、一向にドロップアイテムも、メタリックなスライムも出現してはくれない。
この調子でいくと十七階層をクリアするのとメタリックスライムに出会うのはどちらが先かわからないな。
「シル、メタリックなスライムってまだ出ないのかな」
「ご主人様ならいずれ必ず遭遇します。その時まで頑張ってくださいね」
「ああ、そうだな。ちょっと弱気になっていたかもしれない。シルのおかげでやる気が出たよ。ありがとう」
やっぱり持つべきものはサーバントだな。シルは当然だがルシェやベルリアだっていてくれるだけで頑張る事ができる。
「やっぱりあいつ弱ってるな」
「そうかもしれませんね」
「ちょっとシルが優しい言葉をかけただけであの変わりようだぞ。チョロすぎるな」
「私はご主人様の助けになれて嬉しいですよ」
またいつものようにシルとルシェが後ろでこそこそやっている。
「おい、海斗誰にでも辛い時はあるんだ。辛い時はいつでもわたしを頼っていいぞ」
「ルシェお前……ありがとうな」
ルシェまで俺のことを気遣ってくれるなんて、俺は本当にサーバントに恵まれている。もう落ち込んでいる暇はない。テンションを上げてスライム狩りに集中だ!
「ほらな。チョロすぎだろ」
「そうですね」