A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (592)
第590話 砂嵐の戦い
即席のペットボトルゴーグルで片眼を覆って進んでいるが、普通に目を開ける事ができるだけで随分楽に進む事ができている。
ただ一向に砂嵐がおさまる様子はないのでしばらくは、この状態が続くのだろう。
即席ゴーグルで目を開ける事はできているが、視界は極端に短く、五メートル先がよく見えない。
そして喋ると砂が口の中に入ってくるので全員無言で進んでいる。
サーバントもこれは同じなので、パーティが完全に無音状態で、砂嵐の音だけが響いている。
「ごしゅじん……さま。てき……です」
ようやく砂嵐以外の音が聞こえてきたと思ったら、シルの敵を知らせる声だったが、シルも喋り辛いようで、いつもと感じが違う。
敵の数がわからないがとにかく備えなければならない。
あいりさんは、片手で目を覆った状態で、薙刀を振るうことは正直難しいと思うので前衛はできそうにない。
ベルリアは2刀のうちの一刀を諦めれば、なんとかいけるか。
シルも雷撃を使用すればいけるな。
「ベルリア、シル、まえ」
最低限の単語で指示を伝えて、俺も前に出る。
警戒しながら進んで行くが数メートル先がはっきりと見えないので、かなり怖い。
気がついたら目の前に敵なんて事が十分にあり得る状況だ。
二十メートルほど進むと、前方に明らかに砂嵐の勢いが強くなっている箇所が見える。
砂の密度が濃くなり、明らかにあそこから視界が更に悪くなっている。
全く見えないがたぶんあそこに敵モンスターがいる。
「ルシェ」
もうどれだけも距離がないので、これ以上進むと敵に遭遇してしまう。
できれば、その前にしとめてしまいたかったのでルシェに『破滅の獄炎』を促す。
ん?
ルシェがスキルを発動しない。
ルシェを見ると、なぜかルシェもこちらを見ている。
「ルシェ」
もう一度促してみるが反応がない。
「なんだ?」
「頼む」
「なにを?」
「あそこ」
「なに?」
「やって」
「やる?」
「ごくえん」
口に砂が入り込まないようにお互いに最低限の単語で会話を試みるが、思いの外意思の疎通が難しいようだ。
だが俺の努力によりようやくルシェに意図が通じたようで『破滅の獄炎』を放ってくれた。
放たれた獄炎は前方へと広がり風に煽られ一瞬熱量を増したが、すぐに上空へと舞い上がり消えてしまった。
「なっ……」
獄炎は基本的に一度命中すれば敵が燃え尽きるまで消えないはずなので、どうやら敵モンスターへと命中しなかったようだ。
しかもこの砂嵐が炎とは相性が良くないらしい。
もう、やるしかない。
俺はベルリアとシルと一緒に更に前に進むが、砂の濃いエリアに入った瞬間、風と砂の威力が増して、呼吸もし辛い。
これはゴーグルだけではなく防塵マスクも必要だ。
踏み込めば、敵の姿をはっきりと捉えられるかと考えていたが、実際には視界が更に悪くなり、うっすらと敵影が確認できるのみだ。
見えるだけで確認できる敵影が二体だが、もしかしたらもっといるかもしれない。
激しい砂嵐に声を出す事が難しいので、腕を振り、ベルリアとシルに指示を出す。
シルに一体を任せ、俺はベルリアともう一体の方へ向かって行くが、振り向くと後方は完全に見えなくなっているので、これでは後方からはこちらも見えない。ミクやルシェからの援護は見込めないだろう。
更に敵影に近づくと、ようやく敵の姿が見えた。やはりドラゴンだが、ドラゴンを中心にして、その周囲を激しく砂塵が舞っている。
見る限り風竜と同じく風を纏っているようにも見えるが、纏っているというよりも風が渦巻いて砂を巻き上げているようだ。
敵はストームドラゴンと呼ぶにふさわしい風貌を俺達の眼前に現した。