A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (593)
SS 1日遅れのハロウィン
今日は日曜日なのでいつもよりは少し起きるのが遅めだ。
朝、目が覚めると学校は休みにもかかわらず、隼人から連絡が入った。
「海斗、昨日は葛城さんとどうだった?」
「昨日? いつも通りダンジョンに潜ってたから春香とは会ってないけど」
「は〜? 海斗昨日はハロウィンだぞ! 普通一緒に楽しむだろ」
「ハロウィンか……俺あんまりハロウィンで何かした覚えがないから完全に頭から抜けてたな。隼人は昨日は何かやったのか?」
「俺? 俺は花園さんを誘って仮装パレードに参加するつもりだったんだけど、朝になって急に花園さんの都合が悪くなったみたいで、家でゲームしてた」
隼人……たぶん花園さんは無理だぞ。
「それじゃあ、隼人もなにもしてないんじゃないか。人の事言えないだろ」
「いやいや、葛城さんの仮装だぞ? 海斗は見たくないのか? 真司と前澤さんは二人でパレードに参加したみたいだぞ?」
春香の仮装姿か……もちろん見たいに決まっている。
「海斗、お前今日暇か?」
「いや、これからダンジョンだけど」
「じゃあ、夕方からは暇だろ? 葛城さん誘っておいてくれ。俺も花園さんと真司達を誘っておくから」
「あ、ああ」
急いで春香に連絡を取り、夕方から会う約束をしてからダンジョンへと向かった。
「夕方に春香達と仮装して会うことになったから今日は少しだけ早めに上がっていいかな」
「昨日は春香とは会ってないの?」
「ああ、ハロウィンの事自体忘れてたんだけど、朝友達から連絡を受けて急遽ね」
「え〜、私達昨日ハロウィンバージョンでカチューシャとかリボンしてたじゃない」
「そういえば……それでだったのか。普通にファッションだと思ってた」
「はぁ〜海斗、もっと色々気にした方がいいわよ」
「いや普通の高校男子はハロウィンとか気にしてないって。気にかけてるのは、リア充だけだよ」
「超絶リア充がよく言うわね」
その後いつものようにダンジョンに潜ったが、途中でサーバントの三人に家から持ってきたお菓子を渡す事にした。
「トリックオアトリートって言ってみてくれるか?」
「はい『トリックオアトリート』」
「わかりました『トリックオアトリート』」
「なんだそれ『トリックオアトリート』」
三人の可愛らしいトリックオアトリートを聞いてから、それぞれにお菓子を手渡す。
「ハロウィンって言って子供にお菓子をあげるイベントなんだ」
「ご主人様ありがとうございます。シルは嬉しいです」
「マイロード、大事に食べさせていただきます」
「チッ、わたしは子供じゃないけどな。一応もらっておいてやるよ」
有り合わせで急遽用意したが三人とも喜んでくれたようなのでよかった。
まあ、この三人は仮装しなくても年中ハロウィンみたいな風貌だしちょうどよかった。
順調に十六時に探索を終え地上へと戻り、待ち合わせ場所へと向かうが、俺は変装グッズを持っていなかったのでミクに相談すると、探索者のスタイルのまま行けば大丈夫だと言われたので、そのままの格好で行くことにした。
「みんなお待たせ」
どうやら俺が最後だったようでみんな既に集合していた。
真司は海賊に隼人はアメコミヒーロー。女の子三人はそれぞれが着ぐるみみたいなのを着ているが、春香は猫っぽい。
ハロウィンって魔女とかじゃなくていいのかな。
「海斗、お疲れ様にゃん」
「……………」
「海斗? どうかしたにゃん」
「……………」
なんだ? さっきのは? 俺の意識が完全に飛ぶほどの破壊力。春香が少し赤い顔をしているので、春香も照れているのかもしれないが、その姿がまた可愛いすぎる。
「大丈夫かにゃん」
「……大丈夫にゃん」
思わずにゃんで返してしまったが、なんだこの可愛い生き物は。俺は一切ケモナー属性はないが、春香のこれは反則だろう。
もちろんコスチュームも異常に似合ってるし、本当に可愛いが、春香がこの姿で「にゃん」ってヤバすぎる。
他の2人もそれぞれ衣装に合わせた喋り方をしているようなので、三人で打ち合わせたのだろうと思うが、春香の恥ずかしそうな様子を見る限り発案者は前澤さんだと思われるがグッジョブだ。
俺だけでなく真司と隼人もノックアウト寸前に見える。
「海斗、その格好は、探索者だにゃん。初めて実物見るけどかっこいいにゃん」
「………………」
ぐっ……だめだ。意識が遠のく「かっこいいにゃん」って……
「勇者みたいでかっこいいにゃん。よく似合ってるにゃん」
「………春香も似合ってる……にゃん」
もう俺は長くないかもしれない。今日この時に全ての運を使い果たしてしまったのかもしれない。今年受験を控えているというのにこの瞬間に運を使い果たしてしまっていいのだろうか?
「海斗、魔法の言葉をお願いにゃん」
魔法の言葉? 『ウォーターボール』か? いやそんなはずはないな。これはあれだな。
「トリックオアトリート」
俺がそう言うと春香が笑顔でクッキーを渡してくれた。
「今日作った手作りクッキーだにゃん」
「ありがとう……にゃん」
「食べてみて……」
春香が心配そうな顔で言うので早速口に入れる
うまい。濃厚なバターと卵の味わいと程よい甘さ。それに春香の手作りというプレミア感が加わり、これは俺史上ナンバーワンクッキーだ。
「おいしい。めちゃくちゃおいしい」
「よかった……にゃん」
春香がこちらに弾けるような笑顔を向けてくれた。
ああ……これは完全に運を使い果たした。受験はやばいかもしれない。運には期待できそうにない。
その後みんなで、カラオケにいってワイワイ騒いで解散となったが、春香の猫ちゃんスタイルはしっかりスマホの写真におさめる事ができたので永久保存決定だ。
猫ちゃんスタイルの春香が歌っている姿は最高だった。
今回の唯一の心残りは声を録音し忘れた事だ。
いまだに俺の脳内を春香の「にゃん」がリフレインする。
俺にとって初めて春香や友達と過ごす一日遅れのハロウィンは最高だった。