A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (607)
第604話 家族と胃痛
赤いワイバーンを倒した俺達は更に先へと進んでいった。
目標とする中間と思える地点は既に過ぎている。
これより先は中位ドラゴンが巣食っているのだと思い身構えて進んだものの、結果的に中位ドラゴンが出現したのは、この一度のみで、出現するのは金属竜をはじめとする属性竜の亜種を中心とした下位ドラゴン達だった。
お陰で、それほど苦戦する事なく進むことができたので、当初の目標よりも距離を稼げたと思う。
時刻が十七時を回ったところで今回の探索を切り上げる事にした。
少し早いが、昨日今日と終日みっちり探索したために、それなりに疲労が溜まっているので、思わぬ怪我を未然に防ぐ意味でもこの時間で地上へ戻る事にした。
地上に戻るとまだ明るい。
「それじゃあ次は週末に」
「そうね。いよいよゴールデンウィークね」
「できれば早めに攻略して、残りはヒカリンも一緒に遊びたいものだな」
「そうですね。頑張りましょう」
来週末には、遂にゴールデンウィークを迎えるので、俺達はそのまま解散したが、みんなわかっている。
今のペースならイレギュラーが起こらない限り、まず間違いなくゴールデンウィークのどこかで十七階層を攻略できる。
それは、十七階層の階層主を倒して、ドロップアイテムを手に入れる事を意味している。
つまりは、このタイミングで結果が出るという事だ。
早く結果を出したいという思いはあるが、それよりも、もし結果が望んだものでなかったら……と考えてしまいプレッシャーに押しつぶされそうになる。
他の二人もいつも通りの様にも見えるが、ダンジョンからあがって来たにもかかわらず、去り際の表情には若干の緊張感が見て取れた。
俺と同じ。
二人も俺と同様にプレッシャーを感じているのだろう。
ミクの話では、十八階層を攻略するほどの時間はもう無い。
これでダメならヒカリンは……
いや、俺がネガティブになっても何も変わらない。
俺には幸運の女神ともいうべきシルもついている。
きっと大丈夫だ。
ただ俺には不幸の悪魔ともいうべきルシェもついている。
そのことが俺の心配を加速させてしまう。
たぶん大丈夫だ。さすがにルシェだって今回は空気を読めるはずだ。
きっと幸運の悪魔になってくれるはずだ。
ああ……ゴールデンウィークの事を考えると胃が痛い……
前にも胃を痛めたことがあったが、あの時はダンジョン内でも痛かった。
レベルアップによるステータスの向上は胃腸機能の向上には繋がっていないようだ。
サーバントは俺にとって家族だ。
シルとルシェは俺の妹でベルリアも師匠だが一応は弟のように思っている。
じゃあパーティメンバーは俺にとってどういう存在かといえば、やはり家族のような存在だと思う。
これは俺のパーティメンバーは特に年齢が近いこともあると思う。
もっと歳の離れたメンバー構成なら感じ方も違ったかもしれない。
友達といえないことも無いが、学校のクラスメイトとかとはちょっと違う。
俺が仕事に就いたことがあれば、職場の同僚という感覚が芽生えていたかもしれないが、今の俺にその感覚はない。
ある意味命を預け、預かってダンジョンに潜っているのだ。
今の俺はパーティメンバーに全幅の信頼をおいている。
ただの友達にここまでの信頼を寄せるかと言われれば難しいと思う。
真司と隼人とも時間をかければ同じような感覚になるかもしれないが、今の段階ではまだ及ばない。
そしてただの仕事仲間にここまでの思い入れを持つのかと言われれば、おそらく違う。
職場恋愛を目指していれば、もしかしたら意中の相手に入れ込む事もあるかもしれないが、俺にはこれはあたらない。
では、パーティメンバーとは俺にとってなにか?
シルやルシェとは少し違うが、やはり俺にとっては家族。
俺にとってのもう一つの家族。
その家族の文字通り命運があと少しで決まる。
これが胃にこないはずはない……
ううっ……
おそらく結果が出るまでこの胃痛がおさまることはなさそうだ。