A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (624)
第621話 ドラゴンチェイス
「いやああああ〜!『斬鉄撃』」
あいりさんが渾身の一撃を放つ。
スキルで強化された一撃は、黄色のドラゴンの表面に触れると威力を減衰させたものの、そのまま奥へと到達しドラゴンの本体へと傷を負わせる事に成功したようだ。
「ガィアアア!」
黄色のドラゴンが痛みで初めて声を上げた。
「すまない。まだ浅い! 威力を削がれた!」
あいりさんの『斬鉄撃』でも必殺とはなり得ないのか。
ベルリアの攻撃を見てもこの黄色ドラゴンは、思った以上に防御力が高い。
俺はあいりさんの背後から黄色のドラゴン側面へと走り、そのまま脇腹にバルザードを突き立てた。
バルザードはベルリアの魔刀よりも短い。おそらく斬ったのではベルリアの時と同じようにダメージを与えることができない可能性が高い。
俺は突きを選択して身体毎押し込む。
かなりの反発力を感じるが、突きであればいける!
刃の中間まで押し入れるが、まだなんの手応えもない。
「まだかっ!」
更に体重を乗せバルザードを突き入れると根本まで突き入れる寸前に手に刃先が肉に触れる感覚が伝わってきた。
ただ、肉に届いたのは僅かで致命傷を与えるには程遠い。
俺はすぐさま破裂のイメージをバルザードに乗せる。
『ボフゥン』
黄色の竜を覆う沼とも呼べる泥が弾け飛び、黄色のドラゴンの本体へもダメージが入る。
ただ、バルザードの触れている面積が少なすぎたのか、破裂した大部分は表面の泥部分であり、本体へのダメージは微小なものとなってしまった。
「アァアァアアアアア!」
黄色のドラゴンはダメージを受けたことで怒り狂い、完全に俺をターゲットに定めたようだ。
さすがにこの近距離で攻撃したことにより俺の存在が明確に認識されてしまったようだ。
ドラゴンが首を振り、俺の姿を完全に捉えたので、俺はバルザードを引き抜き全力でその場から離脱を試みる。
とにかく距離を取る為に、背を向けて全速力で駆けるが逃げる俺は地上であれば人類最速と呼べるスピードに到達していると思われる。
ドラゴンの口や腕が届く範囲にとどまることは自殺行為に等しいので、後方からの攻撃のリスクをとっても、とにかく全力でその場から離脱する。
逃げる俺の後方から『ズシン ズシン』というドラゴンの移動する音が迫ってきているのが聞こえてくる。
やばい!
黄色のドラゴンが俺を追いかけてきている。
俺も前方を向いて必死で逃げるが、どう考えても音が迫ってきている。
移動速度が完全にドラゴンの方が上だ!
このままだと、あと数秒で追いつかれてしまうかもしれない。
俺は走りながら頭を高速回転する。
「もういいでしょう。そろそろ終わりにしますね。我が敵を穿て神槍ラジュネイト!」
シルが敵のドラゴンを倒そうとしている声が聞こえて来るが、今の俺には構っている余裕はない。
どう考えてみてもこのまま逃げ切ることは不可能だ。
そしてベルリアとあいりさんの援護は期待できない。
遠距離攻撃は効かず、しかもこの速度で移動しているので二人が割って入ることは不可能だろう。
そうなると残された選択肢は一つしかない。
黄色のドラゴンと正面から交戦するしかない!
普通に考えて中位種のドラゴンと正面から戦うのは得策とはいえないがそれしか選択肢がない。
全速力で逃げながらも俺の覚悟が決まる。自然とバルザードを握る手に力が入る。
『ライトニングスピア』
俺が覚悟を決めた直後に少し離れた後方からミクの詠唱が聞こえてきた。