A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (640)
第637話 祈りの神撃
俺は、身体を起こして周囲を見回す。
「…………」
どこにも無い。
なにも落ちていない。
ドロップアイテムどころか魔核一つとして落ちていない。
どういうことだ?
「ミク、なにも落ちてないな」
「……そうね」
「なんでだ?」
「もしかして、まだ倒してない?」
「だけど、さっきシルが……」
まさか……本当に倒せてないのか?
俺はネクロマンサーの消えた地面を見つめる。
よく見ると地面に散らばった灰のようなものが集まってきているのがわかる。
「嘘だろ……不死身か?」
灰になっても死なないのか。
そもそも死んでいるから死ぬというという事が無いのか?
いくらなんでもそんなバカなことは無いはず。
ネクロマンサーだから元々自分自身にネクロマンシーをかけているのか?
それで倒されても自動修復するのか?
燃やし尽くせば消えるのか?
俺が考えている間にも、灰は集まりネクロマンサーの姿を形作り始めている。
「チッ、魔界のゴミ虫並みにしぶといな。もう一回燃やしてやる! 完全に炭になれ!『破滅の獄炎』」
ルシェが獄炎を放ち、ネクロマンサーを燃やしにかかる。
確かに燃えている。
燃えてはいるが燃えながらも、修復が止まる気配は無い。
燃えながら骨が修復している。
完全にホラーの世界だ。
どんどん修復していき完全な姿へと復活してしまった。しかも身体は燃え続けている。
炎で燃やし尽くすことはできないようだが、これで再びルシェは攻撃する事ができなくなってしまった。
もうこいつを倒せるのはシルだけだ。
ただ神槍の一撃で灰になっても復活してきたので、同じ攻撃で倒せるかはわからない。
「あれか……」
正直全く気乗りはしない。
できる事なら使わずに終わりたい。
確実に倒すにはこれしか無い。だがこれを使うと大きな問題が二つある。
ひとつ目は俺への負担がとんでもなく大きい。
そしてもうひとつの問題は、ドロップ自体が無くなってしまう可能性。
今回絶対にドロップが必要だが、倒すためには使うしか無い。
考えがまとまらず、躊躇してしまう。
前回は、敵の存在そのもの敵の全てを消し去ってしまった。
まともに仕掛ければ前回と同じになってしまう可能性が高い。
じゃあ、敵の存在を残しながら消滅に追いやるしかない。
「シル『祈りの神撃』を頼む!」
「ご主人様、大丈夫なのですか?」
「ああ、ネクロマンサーの頭だけを狙ってくれ!」
「わかりました」
これがルシェなら怖くて頼めなかったが、シルなら大丈夫だ。
絶対に上手くいくはずだ。
「我が主に仇なす者よ、神の怒りを知りなさい。無へ帰せ『祈りの神撃』」
シルが聖句を紡ぎ、俺の身体がうっすらと赤く光る。
「う……ううっ」
急激に力が抜け立っていられなくなり、その場へと倒れるようにしてしゃがみ込む。
神槍ラジュネイトが赤く光り、周囲の空間が歪み始める。
シルが一気に踏み出してラジュネイトをネクロマンサーの頭部へと突き刺す。
赤く光るラジュネイトが頭部へと触れた瞬間、ネクロマンサーの頭部は消えて無くなった。
そして、その瞬間ネクロマンサーの首から下が灰になり崩れ去った。