A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (645)
クリスマスイブSS
「ルシェ、ミク達から聞いたのですが、地上では今日はクリスマスだそうです」
「シル、クリスマスってなんだ?」
「クリスマスというのはプレゼントをもらえる日だそうです」
「プレゼント?」
「そうです。家族や恋人にプレゼントを送る日だそうです」
「じゃあ、あれだな。海斗もわたしたちにプレゼントをくれるんだな」
「そうだといいのですが」
今日、俺は一階層でスライムを狩っている。
夜には春香と食事の約束をしているので今からテンションは高めだ。
「機嫌も良さそうだし、わたしたちへは当然あるな」
春香へのプレゼントはもう購入済みだ。
アクセサリーはこれまでひと通りプレゼントしていたので、悩みに悩んだ結果テディベアのぬいぐるみをプレゼントとして用意した。
少し子供っぽいかとも思ったが、以前春香がブタのぬいぐるみを喜んでいたのを思い出してテディベアにした。
多分ブタよりくまの方が可愛いと思うので喜んでもらえるといいな。
夜の事を考えると、自然と殺虫剤ブレスを押す手にも力が入る。
なんなら、サンタさんから俺へのプレゼントでメタリックカラーのスライムとか出てくれないかな。
本日限定クリスマスカラーのスライムとか出たら面白いのに。
そんなことを考えながら、サクサクとスライムを狩っていくが当然ダンジョンにクリスマスの影響など全くないのでいつも通りのスライムしか出現しない。
そういえば、ダンジョンにもひとつだけクリスマスの影響が出ていた。
ダンジョンの入り口付近の探索者だが、いつもは男女のパーティや女性の探索者もちらほら見かけるのに、今日は、その姿は一切なかった。
ダンジョンに向かっているのは男性の探索者だけ。
しかも、俺の主観だが、見た感じ非リア充探索者に限られていたような気がする。
クリスマスには彼女のいない探索者がダンジョンへと足を運び、怒りと悲しみをモンスターへと注いでいるのかもしれない。
「おい海斗、今日はクリスマスだな!」
「ああ、そうだな。よく知ってたな。もしかして魔界にもクリスマスってあるのか?」
「あるわけないだろ!? ふざけてんのか?」
「いや、突然クリスマスって言い出すから」
「フンッ!」
突然ルシェがクリスマスの話題を振ってくるから、魔界にもクリスマスがあるのかと思ったけど、普通に考えて無いよな。
特にそれ以上何も言って来ないので、再びスライムを狩っていく。
やっぱり今日はいつもよりも他の探索者で場荒れしてないのもあるのか、スライムの出現率が高い気がする。
「ご主人様、今日はクリスマスですね」
「ああ、そうだな。シルもクリスマスを知ってるのか? 神界には……無いよな」
「はい。クリスマスはありませんが、ミクさんから聞いたのでどういうものなのかは知っています」
「ミクから聞いたのか。それでか」
「ミクさんがクリスマスはとてもいいものだと」
「ああ、そうだな。クリスマスがいいものかは人によるな。俺ぐらいの年齢になるといいものとは限らないんだ」
「そうなのですか?」
「ああ……ここ数年はダンジョンで時間を潰したりしてたからな。逆に辛い場合もあるんだ」
探索者になってからの俺は、クリスマスには必ず一人でダンジョンに篭っていた。
外界のリア充達を視界に入れない為。世に蔓延るクリスマスの雰囲気を遮断する為。
中学生になってからは、クリスマスなんかなくなればいいのにとずっと思っていたが、今年は違う。
クリスマスは最高にハッピーで楽しみなイベントだ。
クリスマスに感謝だ。
早く春香に会いたいなぁ。
その後もスライムを狩り続け、いい時間になったのでそろそろ帰る事にする。
「じゃあ、今日はこれで終わりだ。また明日な」
「えっ?」
「は!?」
なんだこのいつもと違う反応は?
「どうかしたのか?」
「い、いえ、なんでもありません」
「くっ……別に!」
「そうか、それならいいけど。それじゃあこれ」
「えっ?」
「は!?」
「二人へのクリスマスプレゼントだ。開けてみてくれ」
二人は、渡したプレゼントをゆっくりと開いた。
「これは……」
「二人に似合いそうだったから、色違いの髪留めだよ。つけてみてくれよ」
「はい」
「あ、ああ」
シルとルシェがお互いの髪に髪留めをつけ合っているが、やはり二人とも似合っていいかんじだ。
「どうでしょうか?」
「ああ、似合ってるよ。いい感じだと思う」
「ご主人様ありがとうございます。一生大事にします」
「ふ、ふん。一応もらっておいてやるよ。ちょうど髪が邪魔だったんだ、壊れるまで使ってやるよ」
二人とも喜んでくれているようなのでよかった。
「ベルリアにはこれだ」
「私にもいただけるのですか?」
「ああ、高いものじゃないけどナイフだ。使ってくれよ」
「マイロードに永遠の忠誠を!」
ナイフは三千八百円だったので永遠の忠誠に対価には少し安すぎるな。
まあベルリアの忠誠は当てにならないからいいけど。
初めてサーバントの三人にクリスマスプレゼントを贈ったけど喜んでもらえたようでよかった。
来年のクリスマスもこの四人でダンジョンに潜れるといいなぁ。