A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (647)
クリスマスSS2
俺は覚悟を決めて人混みの中へと突入を敢行する。
こんな時にアサシンのスキルを使えれば、ササっと人をかき分けてイルミネーションを鑑賞できたのに……
「海斗、わたしちょっと……あっ」
俺に続いて春香もついてきていたが、人の多さにうまく進めずに押し戻されそうになっている。
このままだとはぐれてしまう。
咄嗟に手を伸ばして春香の手をつかんだ。
あ……春香は手袋をしているので、直接触ったわけではないが、まずかったかも。
「大丈夫?」
「うん、すごい人出だから海斗が手をつかんでくれて助かったよ」
「なら、よかった」
どうやら嫌がられたりはしていないようだが、つかんでしまった手のやり場に困ってしまう。
これは、どうすればいいんだ。このまま離してしまうのも名残り惜しい気もするし、そのまま繋いでいるのも変に思われそうで怖い。
「よかったらこのまま手を繋いでもらってていいかな。また、はぐれそうになりそうだから」
「ああ、もちろん。はぐれたら困るからね。うん」
春香から手の事を切り出してくれてよかった。
手袋越しでも春香と手を繋ぐのは緊張してしまう。
手を繋いだ状態でイルミネーションを見て回るが、俺の意識の半分以上は春香と繋いでいる手に集中してしまう。
「イルミネーション綺麗だね」
「あ、そう。そうだな」
「あれは、サンタさんとトナカイのソリだね」
「あ、ああ、そう。そうだね」
本来初めてのイルミネーションに感動する場面なのだと思う。
確かに綺麗だ。
春香も笑顔で嬉しそうだ。
だが、イルミネーションに映える春香の姿がその何十倍も綺麗で、正直イルミネーションなんか全く印象に残らない。
ピカピカ光ってはいるが、あくまでも春香の後ろを流れる背景でしかない。
「あそこでみんな写真を撮ってるからわたし達も撮ってもらおうよ」
「ああ、うん」
大きなハートのイルミネーションの前でカップルが順番に写真を撮っているのが見える。
なんてクリスマスっぽい光景だろう。
どこか現実感がなくて人ごとのように感じながら列に並ぶが、すぐに俺達の順番がきたので、係の人にスマホを渡して写真を撮ってもらう。
「は〜い、それじゃあ撮りますね。お二人とももっと顔を近づけて下さ〜い」
「え……」
「海斗、こういう時は思い切りも大事だよ」
そう言って春香が俺のすぐ横に顔を寄せてきた。
近い! 近すぎる…… 春香の体温が感じられそうなほど顔が近い。やばい。嬉しいけど、やばい。
俺が完全に舞い上がっている間に撮影は終わり。
「はい、撮れましたよ〜」
そう言ってスマホを返してくれた。
画面を見ると、緊張で固まってしまっている俺の顔と笑顔の春香が写っていた。
「綺麗に撮れてるね。わたしにも後で送ってね」
「うん」
春香はイルミネーションをバックに幻想的な感じで写っているけど、俺は酷いな。
ただこれは永久保存フォルダへ直行だ。
その後一時間ほどかけて、公園を回ったが、俺の中では途中からイルミネーションよりもイルミネーションをバックにした春香を眺める会と化していた。
「綺麗だったね」
「うん、本当に綺麗だった」
多分この公園にいる誰よりも綺麗だったと思う。
「また来年も来れるといいね」
「うん」
急遽計画したけど、俺にとっては一生の思い出になったな。
帰り道、俺は用意していたプレゼントを渡した。
「春香、メリークリスマス。これプレゼント」
「ありがとう。わぁ! テディベア。可愛い」
そう言って袋から出してクマのぬいぐるみをギュッとした春香がとてつもなくなく可愛いかった。
どうやら喜んでくれているようなのでよかった。
「これはわたしから。メリークリスマス海斗」
「ありがとう。これは……ベルト?」
「それはね〜、腰にペットボトルとかを下げられるベルトなんだけど、海斗ダンジョンで殺虫剤をいつも使ってるって聞いてたから」
これはいわゆる殺虫剤ホルダーか。しかもなんとなくカッコいい。明日からスライム狩りが更にスムーズになりそうだ。
「早速明日から使わせてもらうよ」
「うん」
クリスマスプレゼントをもらうのは随分久しぶりだ。しかもその相手が春香とは、もう何も言うことはない。
クリスマスがこんなに楽しいと感じたのも本当に久しぶりだ。
クリスマス最高! 全ての人にハッピーメリークリスマス!