A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (652)
お正月SS
今日は一月一日お正月だ。
ダンジョンには休みはない。
三百六十五日ゲートは毎日開かれる。
お正月ぐらい休めばいいのにとも思うが、休日探索者にとってはありがたい限りだろう。
そしてお正月はいつもより早く起きて爽やかな新年を迎える。
家の外に出ると一面の雪。
今年は記録的な寒波が一昨日からやってきて、雪が積もってしまったので、楽しみにしていた春香との初詣もキャンセルになってしまった。
慣れない雪とこの寒さでは仕方がない。
なので俺は予定がポッカリと空いてしまったので、考えた結果、去年同様朝からダンジョンへと向かうことにした。
「あけましておめでとうございます」
「ああ、おめでとう」
俺は入り口の職員の人に新年の挨拶をしてから中へと向かう。
中には既に結構な数の探索者が来ていた。
ただ、クリスマス同様に男性の探索者のみだ。
中には、着物姿の探索者も混じっている。
完全にお正月仕様だが、あの格好でモンスターと戦う気なのか?
「おお、『黒い彗星』あけましておめでとう」
「あ、はい。あけましておめでとうございます」
見たことのある探索者が挨拶してくれたので挨拶を返す。
「今日は、こんな天気なのに結構な数の探索者がいますね」
「まあ、非リアの探索者が考えることなんかみんな同じって事だよ。ダンジョンに外界の天気は関係ないからな。ほら、あそこに即席のダンジョン神社も出来てるし、新年はダンジョンだろ」
そう言われて見てみると、小さな社のような物が祀られてある。
去年こんなのあったかな……
俺は挨拶を済ませるとダンジョンへと潜りサーバント達を喚びだした。
「みんな、あけましておめでとう」
「はい、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「一年前もやった気がするけど、何がめでたいのか全くわからないな。まあ一応よろしくね」
「このベルリア今年も変わらぬ忠誠を誓います。よろしくお願いいたします」
シル以外はおかしな新年の挨拶だが、お正月には破魔矢とかもあるし寧ろめでたくないイベントなのかもしれないので仕方がないのかもしれない。
いくら悪魔でも破魔矢に触ると浄化されて消えたりはしないよな。
前バーベキューした時に普通に塩も食べてたから大丈夫っぽいけど。
「ご主人様、スライムです。ご準備ください」
「ああ、わかった」
縁起物とも言うべき今年のファーストスライムは残念ながらメタルカラーではなく、通常の黄色のスライムだった。
「ベルリア!」
「お任せください!」
いつもの手慣れたルーティーンでスライムを倒す。
今年も順調にベルリアとの連携でファーストスライムを倒す事に成功した。
黄色のスライムに特別感はないがなんとなく運気が良くなったり金運が上がるような気もするので、今年はいい感じかもしれない。
一日中スライムを狩り続けていると時間の経つのは早いものであっという間に夕方になってしまった。
「よし、それじゃあ今日はこれで終わろうか」
俺は初狩りを終えて入り口へと戻るが、流石に朝と比べると人が少なくなっていた。
見ると社には誰も並んでいない。
「よし、せっかくだからこれをあそこに投げ入れてみんなで手を合わせよう」
「何か意味があるのか?」
「まあ、簡単に言うとお金を入れてお願いすると叶うかもしれないって事だ」
詳しく説明してもあまり意味はなさそうなので、三人にそれぞれ百円を渡して四人で賽銭箱目掛けてお金を投げ入れる。
サーバントの三人は流石のコントロールとスピードでお金を投げ入れて手を合わせてお願いを始める。
「どうか春香と上手くいきますように。探索者として上手くいきますように。受験が上手くいきますように。みんなが無事で仲良く過ごせますように」
ちょっと百円では欲張りすぎたかもしれないが、どれも外す事ができない願いなので一気にお願いを済ます。
他の三人もお参り終えたようなので聞いてみる。
「シルは何をお願いしたんだ?」
「もちろん、ご主人様の無病息災です」
ああ、シルはやっぱり天使だ! 俺の事を願ってくれるなんて。
「ルシェは?」
「あ? もちろん魔核をいっぱいもらえるようにだ。特に赤いやつな」
シルに気を良くしてこいつに期待した俺が馬鹿だった。
「ベルリアは?」
「もちろん姫達の息災です。それともちろんマイロードの息災も」
やはりこいつも俺の優先順位がおかしい気がするがルシェよりはましか。
俺への思いにそれぞれ差は感じるが、いずれにしても今年一年誰も欠ける事なくこのメンバーで探索を頑張りたいと思う。
皆さんあけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。