A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (672)
バレンタインSS
「おぉ、海斗! 今日はいい日だよな〜」
「そうか? 寒いし曇ってるけど」
「いや、俺の心は晴天だよ。海斗もだろ?」
真司がいつになくテンション高めだ。
理由はわかっている。今日が女の子にチョコレートをもらえる事もあるバレンタインデーだからだ。
もちろん去年の真司はこんなテンションでは無かった。
去年は今も目の前でソワソワしている隼人と同じような感じだったのに今や、そういう素振りは一切見受けられない。
「あ〜お前らはいいよな。俺ももらえるかな〜」
「隼人、花園さんは?」
「それが、最近連絡しても反応が……前は必ず一日に一回は返事くれたんだけどな〜」
「そうか……」
そういえば以前は何回か連絡を入れると、挨拶みたいな定型文だけは返って来るような話をしていたよな……
「義理でもいいから欲しい! 俺はチョコが欲しいんだ〜! ギブミー!」
「隼人、焦っても何も変わらないぞ。百個の義理チョコよりも一つの愛が詰まったチョコが大事なんだぞ」
真司、それは本命が絶対にくれる奴だけが言えるセリフだ。
俺だって、本当は落ち着かない。
もちろん春香から貰えれば最高に嬉しい。それが手作りだったら一生冷凍保存するかもしれない。だけどもらえるかどうかもわからないんだ。義理チョコだろうがなんだろうがもらえれば嬉しいに決まっている。
どうも世の中では義理チョコは極力減らそうなんていう風潮があるみたいだけど、俺としては非常に迷惑だ!
もっと気軽に渡してくれていいと思う。世の中の奇特な女の子達に言いたい。義理チョコは非モテ男子のファンタジーなんだ! 今までほとんどもらった事のない俺からすると、義理チョコの一個は非常に重みがある。
たとえそれが十円のチョコレートだったとしてもゼロと一では雲泥の差があるんだ。
なんとなく学校全体が浮ついた雰囲気の中、あっという間に 放課後を迎えてしまった……
まだ俺は誰からも貰えていない。
もしかして今年も母親からのオンリーワンなのか……
「いや〜。やっぱり手作りって最高だよな〜」
真司が話しかけてきたが手にはしっかりとチョコレートの入った箱が……
前澤さんいつの間に渡したんだ?
「海斗〜俺やばい。誰も俺にくれてないんだけど。もしかしてこの学校の女の子は今日がバレンタインデーって忘れてるのか?」
「いや、それは無いと思うけど」
俺同様隼人も貰えて無いのか。
クラスを見回すと何人かのリア充達が手にチョコレートを携えている。しかも複数個持っている奴までいる。
くっ……世の中は不公平だ。顔か? 顔なのか? この不条理は両親からの遺伝情報のせいなのか……
もう帰ろう。これ以上教室にいてもいたたまれない。
隼人は、クラスに人がいなくなるまでは粘るらしい。意味はないと思うけど健闘を祈る。
俺はカバンを手に取って教室を出ようとする。
「海斗!」
教室を出ようとした俺の背後から声がした。
振り向くとそこには春香が立っていた。
「海斗、これ昨日作ったから食べてね」
そう言って春香から大きめの箱を渡された。
「これって……」
「うん、今回はガトーショコラを作ってみたの。おうちで食べてみてね」
「あ、あぁ、うん、ありがとう。帰ったらすぐ食べるよ」
「また、感想聞かせてね」
もう今年はもらえないかと思っていたのに、最後の最後教室から出る直前に春香から手作りのガトーショコラをもらえた。
最高に嬉しい。天にも昇る気持ちというのはこういう事なのだろうか。
ショコラはチョコレートだと思うけどガトーってなんだ?
少し疑問に思ってしまったけど、この際そんな事はどうでもいい。
ガトーショコラ最高だ!
俺はテンションが上がりすぎて、周りに気を配る余裕が無かったが、一瞬見えた隼人の目からは赤い涙が流れていたかもしれない。
それから急いで家に帰り、早速ガトーショコラを食べてみる事にしたが、ガトーショコラはチョコレートケーキだった。
口に入れた瞬間、とろける様な味わい。甘さと少し感じる苦味が絶妙だ。
美味しい。今まで食べたどんなケーキよりも美味しい。
まさに絶品! 美味しすぎてそれ以上の言葉が出てこない。
そして週末にダンジョンに潜ったがメンバーの三人がそれぞれ数日遅れの義理チョコをくれたので、春香と母親の分を入れて五個のチョコレートをもらう事ができたが、もちろん全て美味しくいただいた。
今年のバレンタインデーは、数も内容も俺史上最高だったが、隼人は例年通り母親からの一個だけだったらしい。