A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (680)
第672話 ゴブリンとスライムは違う
だんだん視界に入るゴブリンの姿が大きくなっていく。
既に距離は三十メートルは切っている。
このまま、音を立てずに進めばいい。
「あっ!」
野村さんが前方のゴブリンに集中するあまり、足元の段差に気がつかずに少しバランスを崩して、よろめいてしまった。
よろめいただけならよかったが、口を突いて声が出てしまったせいで、ゴブリンにこちらを認識されてしまった。
野村さんが態勢を立て直した時には、既にゴブリンはこちらを目掛けて走り出していた。
すぐに俺が出ようかとも思ったが、野村さんの訓練にならないと思い直し、いつでも出れるようにバルザードを構える。
ゴブリンはどんどん距離を詰めてあっという間に半分ほどの位置まで迫って来た。
「く、来るな〜!」
野村さんが声をあげて、ボウガンのトリガーを引く。
まだ距離は十五メートルほどある。早すぎる。
野村さんの放ったボウガンの矢は、迫って来るゴブリンの脇をすり抜けていく。
ゴブリンはスピードを緩める事無く迫って来ており、その距離は既に十メートルを切っている。
「野村さん! 射て!」
野村さんが、一射目を外した事で迫り来るゴブリンに萎縮したのが手にとるようにわかったので、俺は大きな声で、野村さんに指示を出してから、野村さんのすぐ横に立つ。
「は、はい!」
野村さんが慌てて二射目を放つ
「ガァアア!」
今度は矢がゴブリンの肩口に命中し、ダメージを与える事に成功したが、ゴブリンはすぐに動き出し、野村さんに襲いかかって来た。
「きゃあああ〜!」
野村さんが、至近距離から襲いかかって来たゴブリンの迫力に悲鳴をあげて動きを止めてしまったので、すぐさま俺が前に踏み出してバルザードを振るいゴブリンをしとめた。
「野村さん、大丈夫だから。もう倒したから」
野村さんは、ガタガタ震えながらその場へと座り込んでしまった。
「海斗先輩〜。怖すぎます。ゴブリン怖すぎです」
気持ちはよくわかる。ゴブリンとスライムとの落差が大きすぎる。俺にとっても永遠の天敵とも言えるトラウマを植え付けられた相手だけに、野村さんの今の気持ちは痛いほどに理解出来る。
ただ、ここを乗り越えなければ、探索者としての先は無い。
「野村さん、俺も最初は無茶苦茶怖かったんだ。でも今はもう何とも無い。慣れだよ。それに野村さん、初めてのゴブリン戦だったけど、しっかり一撃いれたんだから大したもんだよ。俺なんか全く歯が立たずにボコボコにされたんだから」
「気を使ってくれてありがたいんですけど、ちょっと信じれないです。だって一瞬で倒したじゃ無いですか〜」
「今でこそだよ。俺だけじゃ無い、真司に隼人も最初はビビって一歩も動けなかったんだから、野村さんは大したもんだよ」
「本当ですか〜?」
「ああ、真司と隼人も今や立派な探索者だからな。それなりに稼いでるし。だから、心配いらない。危なかったら今みたいに俺がフォローするから」
「ありがとうございます。流石は『黒い彗星』です。女の子に優しいです〜」
「野村さん……『黒い彗星』はやめてくれ。ちょっとキツイから」