A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (692)
第684話 三階層の洗礼
咄嗟にバルザードを構え直すが、俺では間に合わない。
「ベルリア!」
俺が声をかけると同時にベルリアが素早く前方へと移動して、刀をワイルドボアに向けて一閃。
ワイルドボアはその身を二つに分けて、野村さんのすぐ手前で消失した。
「あ……助かった」
野村さんが、その場で力無く崩れてしゃがみ込んでしまった。
「わたし、ちゃんと狙って……。三本共当たったのに、全然止まってくれなくて」
「大丈夫だ。ちゃんと当たってた。ただ身体が大きいから致命傷にならなかっただけだから。最初にしては十分出来てたよ」
「だけどベルリア君が助けてくれなかったら私……」
「ベルリアはサポートでついてて役目を果たしただけだし、初めから出来る人なんかそうそういるもんじゃ無い。さっきのは、迫って来たら横へ回避して更にボウガンで追撃してとどめをさすのが正解だったんだ、ワイルドボアは直線的な動きだから焦らず避ければ、今の野村さんでも十分対応できるから」
「はい……」
実際野村さんの今の力をティターニアのスキルで底上げしているのでワイルドボア一体なら十分に相手に出来るだけの力はある。
経験不足と今までに無い大きさの敵の突進によるプレッシャーで判断能力と身体の動きが鈍ったのだろう。
「切り替えて次行こう。多分次はもっと楽に倒せるよ」
経験を積むためには数をこなすしか無いので、次のモンスターを求めて探索を再開する。
「ご主人様、敵のモンスター三体です」
「ベルリアはこのまま野村さんのフォロー、ルシェは一体頼んだぞ」
「働いた分はわかってるよな。タダじゃないぞ」
「ああ、わかってるよ」
そのまま進むとヘルハウンド二体とワイルドボアが見えて来た。
「ワイルドボアを野村さんが、残りは任せろ」
初見のモンスターよりは先程一度戦ったモンスターの方がやりやすいだろうと思い、俺とルシェでヘルハウンドを受け持つ。
野村さんの動きは先程と同じように摺り足でワイルドボアへと向かって行くが、ヘルハウンドの動きは素早く、すぐにこちらへと向かって来たので、俺も迎え撃つべく走り出す。
ルシェはその場からスキルを発動する。
「ここのところやる事なくて退屈だったんだ。派手に燃えてなくなれ! 『破滅の獄炎』」
フラストレーションからいつも以上に力の入った獄炎があっさりとヘルハウンドの一体を焼き焦がす。さすがに今のルシェにとってヘルハウンドでは相手にもならない。
俺は残りの一体に向けて加速して行く。
ヘルハウンドと交錯する瞬間にバルザードを振るう。
交錯する瞬間、アサシンの効果が発動してヘルハウンドの動きが遅くなる。俺はゆっくりとした時間の中を加速して、がら空きとなった首を落とす。
「ふ〜っ、上手くいったな」
俺の調子が良いのか、相手とのレベル差が関係しているのかは良くわからないが、ゆっくりした時間の流れの中を俺だけが速く動く事が出来た。
しかも加速は一瞬だったので身体に痛みも無い。
普段から意識してこれが出来れば、戦闘は劇的に優位に進める事が出来る様になるはずだ。
戦闘を終えた俺は、後方の野村さんの方を見るが、目に入って来たのはベルリアが野村さんの前に立ち、ワイルドボアを斬り伏せる光景だった。