A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (693)
第685話 乗り越えるべき壁
ベルリアは難なくワイルドボアを斬り伏せたが、問題は何故ベルリアがワイルドボアを倒すに至ったかという点だ。
ワイルドボアにはボウガンの矢が刺さっていたが、それは一本のみ。先程と同じシチュエーションだとしても、先程は三本命中させていたのに今回の戦闘では僅か一本。それにワイルドボアが突進して来たら避けるようにも言ってあったにもかかわらずベルリアが前に立って斬り伏せた。
これの意味するところは、野村さんはあのままだとワイルドボアの攻撃を避ける事が出来なかった可能性が高かったという事だろう。
見る限り怪我をしたような気配はない。だとすれば……
「野村さん、大丈夫?」
「えっ、あっ、大丈夫です」
「どうかしたのか?」
「ルシェリアちゃんの物凄い炎を見た瞬間、びっくりして身体が動かなくなって……ワイルドボアが近づいて来て余計に動けなくて……」
やっぱりあれか……。
最初のワイルドボアとの戦いが、一種のトラウマになりかけているのか。
直接的なダメージを受けたわけでは無いので、俺のゴブリンに対するそれに比べると軽度だとは思うがこのままだとまずいな。
少し探索を急ぎすぎたか? だけどこれからの事を考えると俺がついてあげれるうちに三階層で活動できるようにしてあげたい。
そうすれば最悪、パーティが見つからなくても、ソロで二階層を探索出来るはずだ。
「次からは一緒に倒すようにしよう。ダメージは基本俺が与えるから、野村さんは落ち着いて攻撃をしてくれればいい。しばらくすればレベルも上がるはずだから余裕も出てくるよ」
「はい……お願いします」
野村さんを見る限り、少し気落ちしているが、その目からやる気が失われた気配は無い。
事情も聞いているし野村さんにも覚悟はある。
これから探索者としてやっていくなら、野村さんはこの状況は絶対に乗り越えなければならない。いや、先輩探索者として付き添っている以上、俺にも責任がある。
責任からいつもとは違うプレッシャーを感じるが、とにかく探索を再開する。
「やっぱり、わたしにはまだ無理だったんでしょうか?」
「そんな事無いよ。前も言ったけど俺なんかゴブリンに袋叩きにあって一年以上トラウマで再挑戦出来なかったんだ。だけどそれを乗り越えたら今や『ゴブリンスレイヤー(微)』だし、隼人と真司もこの階層で調子に乗って危なかったけど今は十階層を超えて活動してるんだから、野村さんも絶対大丈夫だ」
「はい」
野村さんの不安と気持ちがよくわかる。わかるからこそ絶対になんとかしてあげたい。
「ご主人様、この先の左方向にモンスター二体です」
「ベルリア、一体は任せた」
「マイロードお任せください」
俺は野村さんの真横の並んで進んで行くが、そこにはマッドラットが二体いた。
「野村さん、マッドラットだ。ワイルドボアより小さいけど動きが早くて変則的な動きもする。しっかりと動きを予測して狙うんだ!」
「はい!」
野村さんが狙いやすいように、敵を呼び込むように野村さんよりも少し前に立ち、ゆっくりとマッドラットに向かって進んで行く。
ベルリアはもう一体をしとめるために駆け出した。
「あっ……」
「野村さん、大丈夫だ。ベルリアは気にしなくていいから自分のペースで集中して!」
「はい」
もう一度野村さんに声をかけ、二人で臨戦態勢に入った。