A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (696)
第688話 巣立ちと誕生日
「海斗先輩! 本当にお世話になりました。レベルも上がりましたし三階層にも大分慣れました。これも全部海斗先輩のおかげです。この出会いが無かったらわたしはずっと一階層から抜けられませんでした。海斗先輩には感謝しかありません」
今日で野村さんと潜る最終日だったが、最後に野村さんから御礼の言葉を聞かされてグッと胸にくるものがある。
たかだか1ヵ月足らずだったので、それほど大した事が出来たわけじゃないけど、野村さんからの感謝の言葉は、本当にそう思ってくれているのが伝わって来て嬉しい。
やって良かったと思える。
過去の自分と同じような環境にいた野村さんを俺がサポートして、一階層を抜け出して探索者として成長させる事が出来て俺も嬉しい。
今まで俺がいろんな人達から受けた恩を少しは返せた気がするし、俺自身もダンジョンへの情熱を再確認出来て楽しかったしかなり勉強になった。
「野村さんが頑張ったからだよ。それとそのボウガンだけど次の武器を買うまでは貸しといてあげるよ」
「えっ! いいんですか? レンタル料はいくらぐらいですか? あんまり払えませんよ」
「もう俺は使う事が無いから、レンタル料はゼロ円でいいよ」
「ありがとうございます。正直お金無いし明日から武器をどうしようか悩んでたんです。とりあえずハンマーだけで頑張ろうかと思ってたんですよね〜」
野村さん……いくらお金が無くても二階層より奥をハンマーだけで探索するのはちょっと無理だろう。
「明日も潜るのか?」
「はい! 早速ギルドで紹介してもらった人達と潜ってみる事になってるんです」
「そう、だけど無理はしないようにな。必ず中衛より後ろを担当するんだぞ。間違っても前衛には立つなよ。他のメンバーの力はわからないけど、いつも助けてくれるとは限らないからな」
「はい、それは大丈夫です。海斗先輩達のサポートを受けたおかげで、現実もしっかりと見れましたから無理はしません。教えを守って危なくなったら逃げます」
「そうだな。危なくなったら逃げろ」
元々考え方はしっかりしていたけど、この一カ月で精神的により成長した事も見て取れる。
これが巣立ちか……
感慨深いな。野村さんは俺の生徒としては非常に優秀だったな。
隼人と真司があれだっただけに、最初は少し心配したけど、あの二人とは全く違って、このひと月調子に乗る事は一度も無かった。
あの二人の所為で、もう新人をサポートする事は無いだろうと思っていたけど、野村さんのお陰で、また機会が有ればやってみてもいいかなと思えるようになった。
俺にとってもこの一カ月は非常に充実したものになった。
ただ、春香とのカフェ巡りが完全に潰れてしまったのは痛かった。
先月もヒカリンの件でカフェ巡りが出来なかったので、今月こそと心に誓っていたのにまたやってしまった。
やってしまった事はもう仕方がないが、明日はいよいよ俺の誕生日だ。
春香が手料理を振る舞ってくれる事になっているので今から楽しみで仕方が無い。
自分に誕生日に想いを寄せる相手の手料理を食べれるなんて幸せすぎる。