A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (697)
第689話 誕生日
今日俺はついに十八歳になった。
世間一般で言うところの大人の仲間入りをしたと言っても過言では無い。
その証の選挙権まで得たらしいが全く実感は無い。
今日になれば昨日までの自分と何か変化があるかと思っていたが、もちろん変わったところは何も無い。
当たり前だが年齢だけで、いきなり大人になれるわけでは無かったようだ。
わかっていたけど、少しだけ劇的変化を期待していたので、ちょと残念な気持ちになってしまった。
ただ、今日はそれを補ってもあまりあるイベントが待っている。
春香の誕生日は夜にご飯を食べに行っただけだったので、なかなか遊びにも行けていなかったけど、今日は一日春香がコーディネイトしてくれる事になっている。
楽しみで家でじっとしている事が出来ずに待ち合わせの四十分前に駅前に着いてしまった。
「今日は何処に行くんだろうな。春香と一緒なら何処でもいいんだけど、久しぶりだし楽しみだな。夜はチキンのクリーム煮を作ってくれるのか〜」
こんなに楽しみしかない誕生日は十八年目にして初めてと言って間違いない。
今日一日の未来に妄想を膨らませているとあっという間時間は過ぎて待ち合わせ十分前になった。
「海斗お待たせ。待った?」
「あぁ、全然待って無いよ。俺も今来たところだから」
「よかった。来るのが遅過ぎたかと思ったよ」
今日の春香はピンク色のワンピースだが、よく考えるとピンク色は初めてかもしれない。もう桜は終わってしまったが、桜の花びらを連想させるその出立ちは、さながら花の妖精! ティターニアも髪とかピンクだし妖精はピンクなのかもしれない。
やはり春香とワンピースは最高としか言いようがない。
「ところで今日は何処へ行くつもりなの? ショッピングモール?」
「今日は、海斗が喜んでくれそうなカフェに行きます。結構遠いから電車でしばらくかかるけど海斗は絶対好きだと思うから」
「へ〜っ、楽しみだな」
わざわざ電車で行くぐらいだからいつものカフェとはちょっと違うんだろうとは思うけど、俺が絶対に好きになるカフェか。あまり思いつかないけど、今日は春香にお任せだからおとなしく春香の後を付いて行く。
「遠くない?」
「だからちょっと遠いって言ったでしょ」
既に電車で一時間近く移動している。遠いとは聞いてたけど、目的のカフェは思ってた以上に遠いらしい。もしかしたら着く頃にはお昼ご飯にちょうどいい時間になっているかもしれない。
それから暫く電車に揺られ、降りた事のない駅で降りて、春香に連れられて向かった先には確かにカフェがあった。
ただ普通のカフェでは無い。
店内に入るとお店の真ん中に巨大な水槽が置かれていて、熱帯魚が泳いでいる。そしてその水槽を取り囲むようにテーブルと椅子が並べられている。
「すごいな……」
「そうでしょ。ネットで見て絶対に海斗は好きだろうなと思って」
「あぁ、うん。圧倒されるよ。カフェって言うよりこれは水族館の一部だよ。こんなカフェがあったんだ」
「うん。海斗水族館とか好きでしょ、だからここも絶対好きだと思ったんだよ」
「ありがとう。これは何時間でもいれそう。見てて飽きないよ。ナポレオンフィッシュとかもいるし本格的だな〜。ちょっと感動だよ」
「よかった。連れてきた甲斐があったよ」
春香の連れて来てくれたカフェは俺の想像を遥かに超えていた。カフェというよりも水族館で食事を取る感じだ。しかも俺が水族館好きなのをわかっていてわざわざ連れて来てくれたのが、より一層感動に拍車をかけている。
今までこんな場所で誕生日に春香と食事やお茶をするなんて、想像した事もなかったけど、現実は想像を超える事もあるんだと、席に着いたばかりなのに胸が熱くなってしまった。