A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (710)
第702話 アンデッドフロア
十八階層に潜ってから既に何度かモンスターとの戦闘をこなしているが、まず間違いなくこのフロアは死霊系のモンスターの巣食うアンデッドフロアだ。
スケルトンやゾンビが出現するが、ゾンビにも種類があるらしく、色々なモンスターがゾンビ化して襲って来た。
戦い自体には少し慣れて来たが、ゾンビに噛まれたり傷を負わされたら自分がゾンビ化したりしないかと内心ヒヤヒヤしながら戦っている。
「ゾンビって大丈夫かな」
「大丈夫って何が?」
「手傷を負ったら俺達もゾンビになったりしないかな」
「海斗、それはテレビの見過ぎよ。探索者がゾンビになったなんて聞いた事ないわ。精々雑菌が入って破傷風になるぐらいじゃ無い?」
「それはそれで嫌だけどな」
やっぱりゾンビ化するのはテレビの中だけの話か。
「海斗さん、ゾンビ化は聞いた事が無いですけど、ヴァンパイアに噛まれて亡くなった探索者の話は聞いた事があるのです」
「え……ヴァンパイアはやっぱり噛むんだ」
「はい、そうみたいです。ヴァンパイア化するのかどうかはわかりませんが死ぬ事はあるみたいです」
「そう……か」
ヒカリンの発言に一気にテンションが下がってしまった。
ヴァンパイアは噛むのか。という事は以前戦ったブーメランパンツのマッチョに噛まれたらやばかったのか?
想像しただけで身震いしてしまう。
あの赤いブーメランパンツのマッチョに噛まれる……
絶対に嫌だ!
俺が思っていた以上にヴァンパイアはやばい相手だったようだ。もう二度と会いたくは無いが、もし会う機会ががあれば、速攻で倒すしか無い。噛まれる前に速攻だ。
「海斗、そろそろお昼にしないか?」
「ああ、もうそんな時間ですか。じゃあ適当にその辺で食べましょう。シル周辺に敵はいないか?」
「はい、大丈夫のようです」
俺達は、その場に陣取り十八階層初めての食事を取る事にした。
ただ、各種ゾンビやスケルトンが現れる階層での食事は少し気が乗らない。
「久しぶりのダンジョンでのご飯なのです。幸せなのです〜♪」
「そうね、みんな揃って食べるのは久しぶりだし、いつもより美味しいわね」
「確かに暫くヒカリンがいなかったからな。全員揃ってピクニックだな」
確かにヒカリンが復帰して初めての食事ではあるが、女性陣は逞しいな……
この環境を気にしていたのは俺だけか。
俺のこの日のお昼ご飯は、コンビニで買ったいなり寿司と新発売の納豆ドーナツだ。
まずはいなり寿司から食べ始めるが、安定の美味しさだ。
この甘い感じが小さい時は大好きだったが、十八歳になった今食べてみても普通に美味しい。
いなり寿司には普遍的な美味しさがあるな。
いなり寿司を食べ終わったので、今度は納豆ドーナツを食べてみる。
新発売のパンだが、初めて買ってみた。揚げたドーナツの中に納豆が入っているらしい。
袋から取り出してドーナツにかぶりつく。
サクッとしたドーナツの食感に続いて、納豆の感じが口いっぱいに広がる。揚げてあるのに中は普通の納豆の感じで柔らかい。
「…………」
ドーナツに納豆……
誰が考えたんだろう。俺も初体験に惹かれて購入はしてみたが、この洋風ドーナツの中に和風の納豆が決定的にミスマッチだ。それぞれ単体で食べれば美味しいと思うが、この二つが合わさる事で不協和音を奏でている。
「まずい……」
俺の楽しみであるダンジョンでのお昼ご飯が失敗に終わってしまった。せめてこっちを先に食べればよかった。
どうやら俺の冒険は失敗に終わってしまったようだ。
もう二度と買う事は無いだろう。納豆入りドーナツ、想像以上に難敵だった。