A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (716)
第708話 燃え上がるキョンシー
俺の奥ではあいりさんがキョンシーと戦っているが、本気でおふだを武器にして戦っているようだ。
キョンシーの体術に真っ向から対抗しているのが見える。
見切りとでもいうのだろうか、キョンシーのアクロバティックな攻撃をひらひらと躱しながら左手に持つおふだを貼り付ける機会を窺っている。
「ハ〜ッ!」
あいりさんが不思議な発声と共に踏み込んでおふだをキョンシーの顔にあてがった。
「危ない!」
思わず声が出てしまう。俺も自分の敵を相手にする事で手一杯でフォローに入る事は出来ないが、あいりさんのおふだを持っている手がキョンシーの口のすぐ近くなので噛みつかれたらやばい。
俺は目の前のキョンシーの攻撃を避けながら、あいりさんに注意を向けるが、あいりさんの手が噛まれる様子はない。
「うそだろ……」
あいりさんが相手にしているキョンシーは先程まで繰り返していた攻撃を止め、その身体の動きを停止していた。
信じられない事だが、この理由は一つしか考えられない。
おふだ……
あいりさんが家から借りて来たというおふだの効果が発揮されたとしか考えられない。
映画は事実を元にして作られていたのか? 鬼の件もあるから無いとは言い切れない。
動きを止めたキョンシーだったが、おもむろにあいりさんがおふだから手を離すと、当然の様におふだはキョンシーから離れて落ち、その瞬間再び動きを取り戻した。
なんだ? どういう事だ? あいりさんは何で手を離したんだ?
おふだで動きを止めて、そのままとどめをさせば良かったのになんで手を離したんだ。ただのミスか?
あいりさんの戦いを見て疑念が湧いたが、目の前のキョンシーの攻撃が激しくなって来たので、あいりさんの事は一旦置いておいて、自分の敵に意識を集中し直す。
『ウィンガル』の効果でスピードはついていけているが、問題はキョンシーの防御力の高さだ。
俺の拙い技量では魔刀の一撃で切断には至らなかった。
「海斗! 援護するわ!」
後方からミクの声がすると同時に後方から二発の炎弾が俺の脇をすり抜けキョンシーを襲う。
一発は垂直に飛び上がり躱されたが、もう一発はキョンシーを捉え命中し、その身を燃え上がらせた。
キョンシーの衣装が燃え、周囲に肉の焼ける様な匂いがしてくるが、燃え上がりながらもキョンシーは俺に向かって来た。
これだけ燃えているという事はアンデッド系によくある炎が弱点なのは間違いないとは思うが、痛みを感じないのか、燃えながらもお構い無しに、ガンガン攻撃してくる。
図らずも、さながら全身燃え盛るファイアキョンシーと化している。今までの攻撃に炎が加わり完全に攻撃力が上がってしまった。
「アチッ!」
攻撃を避けても炎が追ってくる。これは長引くとまずい。
炎のせいで攻撃されればされるほど俺へのダメージが増えてしまう。
もう猶予は無い。速攻で勝負を決めるしか無い。