A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (739)
第731話 バンシー
「それじゃあ、『アイアンボール』」
あいりさんがサラッと『アイアンボール』を発動する。
鉄球は無防備な女の子の背中へとめり込んだ。
「グハッ……」
鉄球の攻撃に金髪の女の子が悶絶しているが、憤怒の形相でこちらに振り向いた。
女の子らしい後ろ姿からは想像できないような形相。どう見ても人間ではない。
「キェェエェエエェ〜」
モンスターが奇声を発すると、その姿が視界から消えた
「え……消えた。倒したのか?」
「海斗、違うわよ。魔核が落ちてないわ。バンシーの消える能力よ」
消える能力? そんなの反則だろ。透明なモンスターなんかとまともに戦えるはずがない。
「シル『鉄壁の乙女』だ! 急げ!」
「はい、かしこまりました。皆さんサークルの中へ。『鉄壁の乙女』」
慌ててシルに『鉄壁の乙女』を発動してパーティメンバーを庇護してもらう。
これでひとまず安心だが、バンシーの姿が全く見えない。
「ベルリア、何か感じないのか?」
「マイロード、間違いなくいる気配は感じるのですが、正確な場所まではわかりません」
「シルにもわからないか?」
「申し訳ありません。どこにいるのかわかりません」
「いや、いいんだ」
もしかしたら電子機器であるソナーのようなものには姿が消えたとしても反応があるのかもしれないが、ベルリアとシルにわからないとなると、俺たちにはバンシーの居場所を特定することは限りなく難しい。
「おい海斗、なんでわたしには聞かないんだ」
「だってルシェにはわからないだろ」
「バカにするな。わからなくはないぞ!」
「わからなくはない? じゃあわかるのか?」
「あっちだ!」
「あっち?」
「いや、こっちだ!」
「こっち?」
「そっちだった」
やっぱり、無駄だった。だから聞かなかったのに。
「マスター、たぶん……あっち……です」
「ティターニアもしかしてわかるのか?」
「なんとなく……」
あてにしていなかったが、ティターニアにより場所はなんとかなりそうだ。ただ大体の位置でしとめなければならない。
「まかせて。スナッチ『ヘッジホッグ』よ!」
ミクの指示でスナッチが飛び出して、ティターニアの指す方向へと走り『ヘッジホッグ』を発動する。
鉄の針が全方位へと放たれる。
「キェェエェエエェ〜」
再び奇妙な声が響き渡る。
どうやら命中したようだが、まだ姿は見えない。
「キョキョキィキョイ〜」
今度は先程と違った叫びが聞こえてくる。
なんだ? 嫌な予感がする。
突然スナッチのいる少し奥の床が液状化して沸き立ち、そこからモンスターが三体現れた。
地面から現れたのは大きな鎌を持ったスケルトン。
その姿はまるで死神のようだ。
まさか、こいつらバンシーが喚んだのか?
そういえば、ミクがバンシーは死か死者を呼ぶと言っていたが、こういうことか!
「スナッチ!」
ミクの声でスナッチが再び『ヘッジホッグ』を放つがスケルトン相手には効果が薄い。
そして今度はバンシーの叫びが聞こえてこない。
もしかしてあの三体がバンシーを護っているのか。