A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (785)
3巻発売記念SS 殺虫剤とスライム
ウッドランクの探索者となってから既に三ヶ月が経過した。
一日も休むことなく毎日ダンジョンに潜っているが、俺のレベルは1のままだ。
この調子で本当にレベルアップするのか正直不安になってきた。
探索者になるために既に十万円を支払ったので、手持ちのお金はほとんどない。
スライムの魔核は一個が五百円程度なので全くお金が貯まることはない。
探索者になれば、どんどんレベルアップしてばんばんお金を稼げると思っていたが甘かった。
一番の誤算はスライムの出現率の低さと倒す難易度の高さだ。
ダンジョンで一番の雑魚モンスターであるスライム。
俺はゲームのように歩くたびに出現して、あっさり一撃で倒せる。そんなイメージを持っていたが、実際に探索者になってみて現実は全く違った。
一回の探索でスライムが出現する回数は限られており、一度も現れないことすらあった。
そして現れたスライムも簡単に倒すことはできなかった。
木刀を使い必死で何度も斬りつけてようやく倒せる。
一体倒すとそれだけで体力が大幅に目減りしてしまうので、わずか五百円に過ぎないスライムの魔核すらまともに手にすることはかなわない。
「今度こそ!」
さすがに木刀によるスライム狩りに限界を感じた俺は数日前から木刀以外の術を模索している。
「昨日の塩は結構イケると思ったんだけどな〜」
お金のない俺に試すことができる手段は限られている。基本的に家にあるものを拝借して使うしかない。
木刀で苦戦しているので、これがモップや木製のバットになったところで大差はないだろう。打撃以外に活路を見出すしかないと結論づけた俺は、昨日家にあった食塩一キログラムを持ち出してスライムと対峙した。
スライムは見るからに水分でできている。であればナメクジにように塩を振りかければ効果があるのではと考えた。
結論からいうと効果はあった。ただ、ナメクジと違いそれなりの体積があるスライムが縮むには、一キログラムの塩でも十分ではなかった。
一キログラムの塩を振りかけると時間をかけて半分ほどに萎んだので、たしかに楽に倒せるようになった。
ただ五百円の魔核を得るために一キログラム二百円の塩を使い切ることは効率が悪過ぎた。
今日は既に食器用洗剤を試してみたが、目に見えた効果を得ることはできなかった。
あと試せるのはリュックに入っている殺虫剤だけだ。
自分で用意しておいてあれだが、あまり期待はしていない。あのゴキブリを瞬殺できるほどの威力があるので可能性はあるかもしれないが、虫とモンスターであるスライムが同じかといえば明確に違う。
「見つけた」
運良く今日二体目のスライムを見つけることに成功した。
右手に木刀を構え、左手に強力殺虫剤を携えスライムへと走る。
「くらえ!」
左手の殺虫剤を突き出してスライムに向けて噴射する。
勢いよく缶から殺虫剤がスライムに向けて吹き付けられる。
「やっぱりダメか……」
効かない気がしながらも一応殺虫剤を吹きつけてみるが、特に変化がないので諦めかけるが、その時スライムがスプレーを嫌がるようにして後方へと逃げるような動きを見せた。
これは……完全に嫌がってる!
「逃がすか!」
俺は逃げようとするスライムに向けて更に殺虫剤を浴びせかける。
『グチュ、グニュ、ボヨヨーン』
突然スライムがギャグのような音をたててその場から消え去った。
「なんだったんだ、今の音は。だけど効いたよな。殺虫剤が効いた。ははっ、スライムの弱点は殺虫剤だったのか。うそみたいだ」
今まで、倒すのにあれほど苦労したスライムが殺虫剤を吹きかけるだけで、あっさりと消滅してしまった。スライムに殺虫剤が効くなんて聞いたこともないので、今まで誰も試したことがなかったのかもしれない。
だけど、これで俺はスライムへの切り札を手に入れた。
これからは、スライム狩りがもっとスムーズにいくはずだ。
明日から、これまで以上にスライム狩りを頑張ろうと思う。