A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (797)
第788話 フライハイ
「フ〜ッ」
俺は焦る気持ちを抑え大きく息を吐く。
頭痛はするが、どうやら他にダメージはなさそうだ。
再び俺がジャグルへと意識を向けると、俺よりも先にベルリアが立ち上がり、ジャグルへと斬りかかっていた。
ただ、ベルリアとは大きさが違いすぎて、懐に入ろうと試みてはいるが盾によってそれも阻まれている。
ベルリアの技術をもってしてもひとりであれを突破するのは難しいだろう。
「ベルリア、俺も手伝うぞ!」
そう声をかけてジャグルへと走る。
ジャグルとまともに斬り合うことはできない。剣や盾をうければ間違いなくまた飛ばされる。
俺にできるのは躱しながら交戦することしかない。
ベルリアと合わせて四本の剣。手数は圧倒的にこちらに分がある。
ベルリアの横に立ち、ジャグルの隙をうかがうが、巨大な肉切り包丁の一撃が、横なぎにベルリアと俺を同時に刈り取りにくる。
ベルリアも先程飛ばされたので、ジャンプせずに後方へと飛び退き躱し、その刃が俺へと迫る。
その一撃は大きさに見合わず、かなり速い。ベルリア同様後方へと避け、刃を躱した瞬間、踏み込み打ち下ろして無防備となっジャグルの腕を狙い魔氷剣を振りかぶる。
「マイロード!」
ベルリアの叫び声に身体が反応する。
反射的に目線を横に向けると俺を目掛けて黒い盾が迫ってきているのが見えた。
回避は間に合わない。ほぼ黒い壁と言っていい大きさの盾を前に、俺の身体能力では避ける場所がない。
アサシンの能力を解放し、無理矢理振りかぶっていた魔氷剣を引き戻し、体の前で雷の魔刀とクロスしてインパクトの瞬間身体を護る。
二刀に硬質な衝撃があり、腕が押され、そのまま身体ごと持っていかれ弾かれた。
「ガッ」
アサシンの能力が継続しているせいで、自分が宙に飛ばされる動きがスローモーションのように感じる。
またくらってしまった。
あれほど注意していたにもかかわらず、完全に飛ばされてしまった。
さすがに飛ばされた状態で身体の自由はきかないが、意識はある。
必死にすぐくるであろう衝撃に備えるよう身体に命令をだす。
その直後俺の身体はボス部屋の床へと叩きつけられた。
「ガハッ、アアッ」
背中から叩きつけられ、そのままバウンドして転がった。
「海斗! やったな〜! ふざけるな! この黒豚が〜! 死ね! 今すぐ死ね! 『炎撃の流星雨』」
ルシェの声が聞こえるが、状況を把握している余裕は一切ない。
「ウウッ、ガハッ」
息が苦しい。咳に血が混じっている。肺をやられたのか空気が吸えない。ラミアにも肋骨をやられたが、それよりも苦しい。
「海斗さん! これを飲んでください」
ヒカリンが俺を上向きにし、ポーションと思しき液体を口に運んでくれる。
口に溜まった液体が喉を通っていかないが、無理矢理喉だけ動かして僅かに摂取するが、飲めた量が少ないせいかすぐには効果が出ない。
「マスター! 今わたしが助けます。『キュアリアル』」
「スナッチ! 行きなさい! 『ライトニングスピア』」
「ご主人様! 我が忠実なる眷属よここに顕現せよ『楽園の泉』ルシール来なさい!」
「やああああああああ〜! 『ダブル』」
周囲からみんなの声が聞こえてくるが、まだ確認する余裕はない。
「海斗さん、大丈夫なのです。みんなが戦ってくれています。ゆっくり飲み干しでください」
ヒカリンが優しい声をかけてくれる。
僅かに飲めたポーションと『キュアリアル』の効果が現れ始めたのか、さっきよりも喉を動かすことができるようになってきたので、口の中に残るポーションを飲み下す。
「よかった。もう少し飲んでください」
ヒカリンは俺が口の中のポーションを飲み干したのを見て、ポーションの残りを口へと運んでくれた。