A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (799)
第790話 焼豚
魔氷剣の刃がジャグルに触れる瞬間、切断のイメージをのせて押し込む。
「ギガアアァ」
魔氷剣は少しの抵抗と共に漆黒の鎧を突破して、ジャグルの脚の肉の繊維を切断する。
いける!
そのまま力を込めて深く斬りつけようとするが、途中で硬質なものにあたりそれ以上魔氷剣の刃が動かない。
更に切断のイメージを重ね、体重を乗せ力を込めるが、やはりそれ以上斬り進むことができない。
鎧と肉を絶った感覚はあった。それならこれは骨なのか。なんて硬い骨なんだ。
硬い骨に阻まれ、それ以上斬り進むことができないので、即座に切断することを諦め他の箇所を攻撃することに切り替えるが、今度は引き抜こうとした魔氷剣が抜けない。
「くそっ」
ジャグルの肉と脂に締め付けられ、引こうにも全く抜けない。
全力で引き抜きにかかるがびくともしない。
「ご主人様あぶない!」
「ブモオオオォッ〜」
動きを取り戻したジャグルが、動きを止めた俺に向けて再び大楯を振るってくるのが見えるが、魔氷剣が抜けないせいで反応が遅れる。
「海斗様に手出しはさせません。お還り下さい。『エレメンタルブラスト』」
回避の遅れた俺を護るようにジャグルとの間にルシールが飛びスキルを発動する。
再び風がジャグルを襲い、動きを奪う。
本来ルシールの一撃は敵を葬り去るだけの力を持っているが、残念ながら目の前に迫る巨体のジャグルを倒すほどの威力はない。
俺は、その瞬間、風に巻き込まれないよう咄嗟に魔氷剣を手放し、後方へと下がった。
メインウェポンを手放す事には抵抗があったが、あのまま手放さなければ俺にも影響が出ていたのは間違いない。
それに魔氷剣はジャグルの脚の深いところまで刺さったままだ。魔氷剣が解けバルザードへ戻ったとしても、剣が深く刺さったあの脚のダメージからまともに動くことは難しいだろう。
それにしても鎧を斬ることができた魔氷剣が、骨を絶つことができないとは、いったいどんな骨の硬度なんだ。
「また、ご主人様に害をもたらそうとしましたね。その存在すらもう許すことはできません。消し炭となりなさい! 『神の雷撃』」
ルシールにより動きを拘束され、今度は盾で受けることができなかったジャグルは『神の雷撃』の直撃を受けた。
「グブバァアア〜」
雷撃を受けたジャグルから肉の焼ける匂いがしてくる。
「やっぱり、デカくても豚は豚だな。焼けたら豚の丸焼きの匂いがする。まあ、こんなに醜い黒豚の肉を食べたらお腹を壊しそうだから頼まれても絶対食べてやらないけどな。ついでに燃えとけ! 『破滅の獄炎』」
こんな場面で不謹慎とは思うが、ルシェのいう通り周囲には焼豚のなんともいえない薫りが充満している。
しかも獄炎による直火焼きとでもいえばいいのか、更に本能的に食欲を刺激される薫りが放たれている。
雷撃と獄炎によるダブルロースト。いわゆる二度焼きだ。
ただ、もし食べられるとしても、ルシェ同様このオークロードを直に食べる勇気は俺にはない。
俺は雷の魔刀を構え焼豚の反撃に備える。