A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (800)
第791話 黒豚に放つ一撃
焼豚のいい匂いを充満させながらも、ジャグルは動き出した。
獄炎は纏わりついて肉を焼いているのに、なぜあの状態で動けるのかもよくわからないが、肉切り包丁を上段に構えたまま再び吠えた。
「グブアアアアアアアアア〜」
一度目の咆哮と同じか、それ以上のプレッシャーが襲ってくる。
「おあああああっ!」
押しつぶされそうになるのを、声を張り上げ跳ね返す。
なんとか耐えきったが、一度目にダメージを受けた二人は、先程同様に戦闘不能に陥ってしまった。
ただ二人とも後方へと下がっていたのと、既に『キュアリアル』を受けているので、徐々に回復するだろう。
だがこれ以上、咆哮を連発させるわけにはいかない。
これ以上は、メンバーへの精神負担が大きくなりすぎる。
ジャグルも右脚に魔氷剣が刺さっているので右には踏み込めないはず。
俺は、ジャグルの右側に向かって走る。
『ブラックブレイド』
『アイアンボール』
俺の動きに合わせてベルリアとあいりさんが援護してくれる。
ジャグルの右側へと回り込もうとした瞬間、上段に構えられていた肉切り包丁が俺へと振り下ろされるが、アサシンの能力で時間を稼ぎ、俺自身は加速して肉切り包丁を掻い潜る。
そしてそのまま脇を抜け後方へと回り込むと同時にすぐ後ろにルシールがついてきてくれているのを確認する。
ここが勝負どころだ。出し惜しみなしだ。
まだアサシンの能力が続いているので、ジャグルの動きは鈍く感じる。俺は雷の魔刀を構えジャグルの左脚へと渾身の力を込めて振り下ろす。
アサシンの効果でも、刀の威力が上がるわけではないので先程同様に鎧に弾かれるが、すぐに同じ箇所目掛けて二撃目を放つ。
『愚者の一撃』
俺のHPと引き換えに必殺の一撃が雷の魔刀から放たれる。
魔刀により放たれた一撃が、黒い鎧を吹き飛ばし肉を削るが、魔氷剣同様に骨により阻まれる。
「ルシール!」
「おまかせください。海斗様には指一本触れさせません。お還り下さい。『エレメンタルブラスト』」
ルシールが身体を無理矢理捻り俺に迫ろうとしていたジャグルを風で縛る。
俺はすぐに引き、低級ポーションを取り出して一気に飲み干す。
切断こそならなかったが、これでジャグルの両脚に相当なダメージを与えた。もうまともに動くことはできないはずだ。
「またご主人様に害をなそうとしましたね。まだ焼け切らないようですね。これ以上ご主人様には触れさせません。早く消えてください。『神の雷撃』」
「デカすぎなんだよ。さっさと丸焼きになれ。いつまでそうやって立ってるつもりだ! 消し炭になれ! 『炎撃の流星雨』」
俺が下がり、ルシールがスキルを発動した直後、シルとルシェも同時にスキルを発動した。
先に雷撃が着弾し、そのあとに炎の流星雨がジャグルへと降り注ぐ。
ルシェのスキルの炎が一面を覆う前に、急いでその場から離脱する。ジャグルの近くにいると巻き込まれる。
轟音と熱風が一面を支配して、土埃が舞い上がる。
ノーガードでこれをくらえば、階層主といえどもさすがに生きてはいないだろう。
それほどの熱量と威力。
だが、ジャグルが倒れた様子は、まだない。
立ったまま絶命したのか?
俺は土埃の中目を凝らす。