A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (805)
第796話 肉切り包丁
「マイロード、お詫びとお願いがあります」
「どうしたベルリア」
「実はあの骨に斬りかかった際に、マイロードから賜った魔刀が二本とも刃こぼれを起こしてしまいました。本当に申し訳ございません。このベルリア一生の不覚」
「ちょっと見せてくれる? もしかしたら俺が研げるかもしれないし」
ベルリアもか。『アクセルブースト』で勢いがついてたからな。俺の雷の魔刀も骨に当たって折れたし、明らかに硬度が魔刀よりもジャグルの骨の方が高かったんだろう。
だけど最近俺の研磨技術もそれなりに上がってきている感があるので、少しぐらい欠けたとしてもどうにかできるかもしれない。
「これなのですが」
「…………」
ベルリアに見せられた魔刀は欠けているというよりも、完全なる破損。かろうじて折れてはいないが刀身の中ほどまでが抉れるように破損している。
これは無理だ。俺じゃなくても研いでどうこうなるレベルを超えている。
どう考えても、もう使えない。
「やはり無理でしょうか。それでお願いがあります。その肉切り包丁を私に賜ることはできないでしょうか?」
「これベルリアが使うのか? さすがに長過ぎないか?」
「いえ、剣であればどのようなものでも、必ず使いこなしてみせます」
「みんな、どうかな」
「私たちは使わないし、いいんじゃない」
メンバーに確認を取るがみんなベルリアに使わせることに問題はないようなので、渡すことにする。
「それじゃあこれはベルリアのな。だけど一応鑑定しときたいから、一度回収させてもらう」
「はっ、ありがたき幸せ。このベルリアその剣が尽きるまでマイロードと姫様のために頑張ります」
このセリフ何度目だろうか。
武器は消耗品であることは理解しているが、ベルリアが使い潰すと言えば本当に使い潰す。
今までもそれなりの本数の剣がお亡くなりになっている。
それに今回全員レベルアップという思っても見ない恩恵はあったが、結果として魔刀三本がお亡くなりになり、代わりに肉切り包丁と豚骨。
仮に肉切り包丁の価値が俺の折った魔刀一本分だとしてもベルリアの魔刀二本と豚骨が釣り合うとも思えない。
魔刀が一本千五百万円だとすればなんと三千万円のマイナスだ。
考えると目眩がしてきた。
三千万円あれば、俺の住んでいるあたりなら普通に家やマンションが一括で買える値段だ。
それが今の一戦で消えてしまった。
『愚者の一撃』を連発した疲労とは別種の疲れが全身にのしかかってくる。
しかも俺の武器がひとつ減ってしまった。
また魔核銃を使ってもいいが、これから十九階層ということを考えると非力さは隠せない。
あまりのショックに忘れるところだったが、せっかくレベルアップしたのでステータスを確認してみることにした。