A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (826)
817話 音波
辛うじて誰かが俺の真横にいるのがわかった。
「マイロード、すぐに回復いたします。『ダークキュア』」
徐々に目眩が治まってきた気がする。これはベルリアかティターニアが回復スキルを使ってくれているんだろう。
そのままうずくまっていると目眩と気持ち悪さが少し治まってきたので目を開き横を見ると、そこにはベルリアがいた。
「マイロード、いかがですか?」
「少し治まってきたけどまだ難しい」
「わかりました。ここは危険ですので一旦下がりましょう」
そう言うとベルリアは俺を背負い後方へと離脱し始めた。
ベルリアと俺では結構身長差があるので、引きずられるようにして後方へと運ばれる。
「海斗! 大丈夫? なんの攻撃をくらったの?」
「いや、それがよくわからない。犬型が吠えたと思ったら頭がグラグラして立っていられなくなったんだ」
「おそらくあの犬から音波による攻撃が放たれたのかと」
「音波?」
「はい」
あの揺らぎは音波だったのか。音波でこんな風になるのか。
「あ〜も〜怒ったぞ。チョロチョロ鬱陶しい! まとめて燃え尽きろ! あいりも勝手によけろよ。『炎撃の流星雨』」
え!?
俺の耳にはまだ音波によるダメージが残っているのかルシェの声が聞こえた気がする。
『炎撃の流星雨』!?
「マイロードここは危険です。下がりましょう」
危険だからと下がって来たはずの安全ラインから、ベルリアに連れられ更に後方へと移動させられる。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』
いつものように、ダンジョン一帯に上空から地鳴りのような低音が響き渡る。
ああ、やっぱり聞き間違いじゃなかった。
上を向くとそこには無数の火球が出現しており、四体のモンスターに向けて降り注ぐ。
五体いたはずなので一体はシルか誰かが倒してくれたのだろう。
一瞬で前方が火球により炎に包まれていく。
炎への耐性を持っているであろうメタルモンスターも、絶え間なく降り注ぐ火球の前に一体また一体と倒れ消滅していく。
最後に残った大型も全身に火球を浴びて呆気なく燃え尽きてしまった。
「ふふん、チョロチョロしたって、わたしから逃げられるわけないだろ」
「姫、さすがです」
「海斗、わたしが倒したぞ? 見たか? あんなのわたしの敵じゃなかったぞ。ふふっ」
「いや、まあ、助かったけど」
「ふふっ、そうだろ。わたしのおかげだな」
たしかに、ルシェのおかげで助かった。
ベルリアによると音波による攻撃だったようだが、得体の知れない攻撃を受け俺は完全に戦闘不能になっていた。
このまま戦っても、他のメンバーがどうにかしてくれていたとは思うが、苦戦していたのは事実だ。
「海斗やっぱりわたしが一番だろ?」
「いや、まあ」
「ダントツ一番だっただろ」
「まあ」
「ルシェ、ご主人様を困らせてはいけませんよ」
「ふふん、シルは一体だけだからな」
数の問題ではないし、明らかにオーバーキルだった気はするが、この場はルシェにお礼を言っておこう。
「ルシェ、助かったよ。ありがとうな」
「ふふん、そうだろ。わたしのおかげで助かっただろ。お礼はいっぱいの魔核でいいぞ。いつもよりお腹が空いちゃったからな。いっぱいくれたらいいんだぞ」
あ〜そうなるよな。『炎撃の流星雨』はMP消費が50もある大技だ。ルシェのお腹が減らないわけがない。
「わかってるよ。ほら、これでいいか?」
「ふふっ、うん、うん、うん」
ルシェに魔核を渡すと満面の笑みを浮かべ魔核を吸収し始めた。