A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (839)
830話 豚骨剣
魔法剣を試し目処がついたので一階層でスライム狩りに励んでいると、木曜日の昼に武器屋のオッサンから連絡が入っていた。
予定よりも少し早いが、頼んでいたジャグルの骨で作った剣が出来上がったらしい。
「こんにちは〜」
「おう、坊主か出来てるぞ」
「あれ? なんかいつもより元気がないような……」
「そりゃあ、元気もなくなるぞ。金に目〜眩んで安請け合いしたのが間違いだった。なんだあの骨。ふざけた強度じゃねえか。ドラゴンの牙よりかて〜。普通に熱しようが、叩こうが削ろうがびくともしねえ。あ〜こんな事なら1000万はもらいたかったぜ」
「1000万は無理ですよ」
「わかってるって。俺も男だ。1度吹っかけた金額を違えるような事はしねえ」
ふっかけ……
やっぱりふっかけてたのか。
「それにしても、俺が扱った事のある素材の中でも一二を争う厄介さだったぜ。おかげで徹夜しちまったじゃねえか。おかげで肌艶落ちてくすんじまったぞ!」
それでいつもの元気がないのか。それにしてもオッサンでも肌艶とかくすみとか気にするのか。もしかしてこのオッサン意外に心は乙女とかあるのか?
……いや絶対それは無いな。
「ちょっと待ってろ」
そう言うとオッサンは裏へと下がって行き、一本の剣を持って現れた。
「おおっ!」
思わず感嘆の声をあげてしまったが、その剣は見惚れるほどに美しかった。
真っ白な白磁を思わせる光沢のあるその刀身はとてもあのジャグルの骨からおっさんが打ち出したとは思えない程に流麗。
「どうだ? すげえだろ。俺の渾身の作だぜ。名付けて豚骨剣だ」
「豚骨……剣」
「ガハハハ、冗談だ。こんだけ苦労して作って豚骨剣はねえだろ。白麗剣ってところか」
「白麗剣ですか。いいですね」
「厨二の坊主にピッタリの名前だろう」
「その言い方はあれですけど、いいですね」
「聞いて驚くな。この剣よ〜特殊効果が出てんだぞ。立派な魔剣だ! 全部俺のおかげだぜ?」
「魔剣ですか。それでいったいどんな効果が?」
「不折だ」
「不折? 折れないってことですか?」
「おう、この剣は元々素材の強度がおかしかったんだけどよ〜。この俺がスペシャルなスキルで仕上げた事で折れない刀になったって事だ」
「それって凄くないですか?」
「おうすげえだろ。俺がな」
「折れないってことは、逆に言うとなんでも斬れるってことですか?」
「まあ、そうとも言えるかもな。そこは使う奴の技量次第じゃねえか」
「技量次第でオリハルコンとかでも斬れたりしますか?」
「おいおい、それは無茶ってもんだろ。物事にはなんでも限度ってもんがあるんだぞ。常識だろうが」
まあ、それはそうか。
そもそも技量次第と言われても俺にそれほどの技量があるとも思えない。
それにしてもあのジャグルの豚骨が、こんな魔剣になるとは望外だが、これで武器は揃った。
週末の19階層の探索が楽しみだ。
「坊主、鞘どうする?」
「鞘ですか。欲しいです」
「その剣に合う鞘だとオーダーメイドだからな。まあオマケして百万でいいぞ」
「え……」
「おいおい、なんて顔してんだ。そんぐらい稼いでんだから払えるだろうが」
「いや、でも……」
「冗談だ」
冗談……おっさんが言うと一切冗談には聞こえない。
「二十万でいいぞ」
「まあ、それならお願いします」
百万に比べたら安く感じるけど、鞘で二十万って結構するな。
「じゃあ、これな」
「いや、さっきオーダーメイドだって」
「俺が剣を仕上げて鞘を作ってないわけね〜だろうが」
「そうですか」
「ほらピッタリだろうが、この黒い鞘にその白い刀身。俺ってやっぱりすげえな」
確かに白い刀身に黒い鞘はピッタリマッチしてカッコいいが、このオッサンの自分押しはなんだろう。